皮余り切除という、人に話しても直ぐにはピンと来てもらえない美容手術ではあるものの、しかし僭越ながら恐らくかなり上に位置する程それは辛くて痛くて苦しい大きな手術、ピークだった3日間を過ごして4日目、5日目と時間が過ぎて現在針が0時をカチカチと回ってから時計に目をやる2時57分。6日目。

そんな真夜中に、私はこのエッセイを書いている。

本当は少し前に締め切りのあった「私と父親」のテーマに合わせて書きたかったのだけれど、いかんせん締切日が惜しいことに丁度私の手術日であり、その様なテーマがあることを知ったのもその直前だったのだ。

手術日のギリギリまで仕事をしていた私にとって、この件は素直に悔しかった。
ただ、それでも良いから今のうちに自エッセイとしてあくまでも私の中としてこのテーマで書いておきたく、今こうして文字を重ねているのにはきちんとした理由があるのだ。今この瞬間に書いておきたかった、理由が。

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実は私は小さな頃から父親という言葉の意味や、父親という存在が大嫌いだった。正確に言うと否定を通り越してそもそもの"父親"という対象自体、私の中には最初から無かったことにしておきたかった対象だったのだ。
何故なら、それは例えば母親に暴力をふるい生活費を入れない姑息で貪欲な血の繋がった男や、その後の母親の彼氏であり、父親と呼べと強制しては3人姉弟の内、私と長男だけにずうと、ずうううと肉体と精神をむしゃむしゃと病原体のように蝕む虐待を繰り返してきた男の存在が有ったからだ。

何処までも金にがめつく、母に迷惑ばかりかけ、ようやっとのこと離婚まで辿り着いた母と子供である私達にその後も笑ってしまうぐらいの仕打ちや酷いことを繰り返していた男私と長男に、後に私の逃げ道を支援してくれた方々や精神科の皆さんが話を聞かせているこちらが申し訳ないくらい号泣してしまう程の、痛々しくて毒々しくてリアルな虐待をいつもいつでも当たり前のようにやってのけてくれた男。屑男達2人組。

当然血の繋がった方の男も母親の彼氏であった男も私達姉弟に父親呼ばわりさることは至極当たり前で、どちらかと言うと呼ばせてやっていると初めから脳内にインプットしていた男達だったからか、私達は嫌でも"パパ"と呼んでいた。
だから私にとって父親というのは最初に記した意味合いを含めての、神に毎晩ベランダで泣きながら消えてくれと頼んでいた存在でしかなかったのだ。

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大嫌いだった。血の繋がった方も母親の彼氏も。

特に母親の彼氏であった男に至ってはどうにか警察に見つからずに簡単に殺せないかと、引っ張られすぎてスカスカになった頭髪を手で押さえ、殴られすぎてぼこぼこに腫れ上がった顔を更に歪ませては、とにかく1秒でも早く消えてくれないだろうかといつも考えていた存在だった。
勿論、結果的に私は殺さず家から逃げて1年、いつ見つかるのではないかと怯えながらも、自分でなんでも計画を立て好きに過ごせるという幸せな生活をぬいぐるみ達と共に歩んでいた。

そんな中、今年に入ってからとある繋がりである50代後半の男性と出会い、手続きこそしてはいないものの様々な面で助けてくれているので、形式としては、養父。だが私の気持ちとしては「一般論としての父親」だと思わせてくれる人に信じられないことに出逢えたのだ。
ようやく、ようやく、父親に出逢えたと思った。

過去の話も私の夢も全部受け入れどんな他愛ない話も馬鹿にせず聞いてくれ、いつだってもっともっと幸せにならなくちゃ駄目だと沢山の言葉を掛けてくれるお父さんに、私はようやく出逢えたのだ。

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あの思い出すだけでもトラウマとして再生されは、必ずと言っていいほど過呼吸を起こしてしまう程の傷を負わせてくれた父親という存在を、丸ごと塗りつぶしてくれた父に私はどれ程の幸せを貰っただろうか。
毎日メールでその日あったことを聞いて貰うのが楽しく、一緒に私のドハマリしたファミレスで食事をするのが楽しい。
私の最高の自慢話やぬいぐるみ達の話を聞いて貰うのが楽しく、そうして他人に当たり前のように父の話を、家族の話を心から楽しく話せるのがとてつもなく幸せで楽しかった。

今回の手術後期間、私は一切の冗談も交えない程のゾンビ化してとにかく"生きてはいる"状態が続いていたのだけれどその間、もとい6日目である今でも仕事終わりにこちらに来て必要な物をあれやこれやと毎日買ってきてくれたり時には泊まってくれたりと、私は何度感謝の気持ちを述べたか自分でも最早わからない程全ての意味で普段より一層手助けをしてもらった。
「父親なんだから当たり前のことだ」とお礼の言葉を述べる度に照れている父を目の前にして、何せ必死に頑張ろうと、やれる所まではやろうと決心して気付くと6日目まで辿り着いていた。

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このエッセイを今の間に書きたかった理由はただひたすらに1つのみで、それはもうすぐ父の誕生日が迫っているからだ。

物欲があまり無い父に何を贈れるか相当悩みどころだが、それでもせめて心からお祝いさせて貰いたい。そう思った午前4時、10分。泊まりに来てくれた父のすぴすぴとした寝息を聞きながらおやすみなさい。