私には、付き合ってもうすぐ1年になる恋人がいる。
3回目のデートの帰り道で告白をされた。
私の家まで送り届けてくれて、私が車を降りようと「じゃあね」と背を向けたときに「待って」と呼び止められ思いを伝えられた。ドラマのワンシーンのようだった。

私も彼と同じ気持ちだったので、晴れてお付き合いをすることとなった。
そのとき彼は、「俺はひとつのことにしか集中できない。仕事モードのときは仕事に没頭してしまう。寂しい思いをさせてしまったらごめん」ということと「気持ちを察するとか察して動くということが苦手なんだ」ということを言った。
私はそれを聞いた上で、「お互いにまだ付き合いも浅いし、他人同士が親密に関わるということは大変なことだから、お互いに違和感を感じたときには逐一話をしたい」ということを伝えた。
お互いに但し書きのようなものをつけて、関係をスタートさせた。

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私は正直、彼の但し書きを聞いてドキッとした。悪い意味で。
なにを隠そう、私は真性の「かまってちゃん」「察してちゃん」だったし、LINEなどの連絡頻度で愛情を測るタイプの人間だからだ。
続く気がしない。そう思ってしまった。

しかしフタをあけてみると、速攻でダメになるということはなく、それなりに関係は続いていた。それに、けっこう、幸せだった。

彼の仕事は日本でいちばん激務なんじゃないかと思うような業種で、たしかにLINEは1日に3回くらいしか返ってこなかった。
でもこちらもこちらで忙しかったということもあったし、少なくとも週に1度は会うようにしていたし、会えば会ったで優しいし楽しいし最高の相手だったからあっというまに半年くらいは経ったと思う。

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しかし、付き合い始めてから半年くらいのときに、私が仕事で大スランプに陥った。
彼は全く悪くないんだけど、彼は私がスランプに陥っていることなんてつゆしらず、自分のペースでガンガン仕事をしていたし、自分のペースでLINEを返してきた。
私は今日会ったことや自分の苦しさの話を聞いてほしかったが、1日3往復のLINEではそんな話に持っていくこともできない。「こんなんほとんど他人じゃん。この人私が死んでも気づかないんじゃないの?」と思っていた。 

そこで悪い癖が出た。ほんとうに悪い癖。
「なんかあった?」って聞いてほしいと思ってしまった。
冷たくLINEを返してみたり、LINEを返すまでの時間を長くしてみたり。暇なのに「今週は会える状況じゃないかも」って言ってみたり。
おもしろいぐらい、全部空振りした。
腹が立ったし悲しかった。
逆にこの人すごいな!?と感心してしまうほどのスルー具合だった。

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そんなときに但し書きを思い出した。
よく考えれば、この人はちゃんと事前に言ってくれてたよな……。セオリーとしては、察して欲しいと思っていることを話題にして話をするのが正しいんだよな……

やや切ないしプライドが邪魔してくる感はあったけれど、私は彼に頭を下げた。
「お願いしてそうしてもらうのはつらいけれど、もう少し私に興味をもってほしいです」
彼は「わかった、ごめん」と言ってだきしめてくれた。

そこから、彼が劇的に変わった。
できる限りLINEをくれるようになったし、やりとりの数は少なくても必ず「今日はどうだった?」「どんな1日だった?」と聞いてくれるようになった。

すごく嬉しかった。軽率に救われてしまった。

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「察してもらう」幸せもあるけど、私は「素直にお願いした上でそれを聞いてもらえる」幸せも知った。きっと察することが苦手だと自覚している彼だからこそ、お願いすれば真摯に向き合ってくれるんだと思う。

その幸せに気づかせてくれた彼には大感謝。
思い切って頭を下げたあのときの自分にも大感謝。