25歳にして初めて肩のあいたワンピースを買った。
たったそれだけのことと思うかもしれない。小学生くらいの子だって着ているのを見かける。でもわたしにとっては一大決心だ。

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肩を見せる服装はわたしの憧れだった。その始まりは、もしかしたら小学生のころに遡るかもしれない。友達が着ていたノースリーブのボーダーシャツをかわいいなと思って見ていたのをうっすら覚えている。
でもわたしは二の腕に自信がない。ノースリーブなんて着れない。そんなとき現れた救世主が、肩があいているけど袖のある服だ。好きなアイドルが私服で着ていて、これだと思った。大学生のころだ。

でもわたしは買えなかった。普段よく着る服装は、よく言えば「上品」、悪く言えば「地味」だ。それを着る自信がわたしにはなかったのだ。
もっとかわいい子じゃないと似合わない。わたしのイメージと違うから着ていたら変だ。それに家族はなんて言うだろう。心の中で言い訳をして、誰にも打ち明けずに憧れを閉じ込めた。

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社会人になり働き始めて、それまでより欲しいものを自由に買えるようになった。ネットでぼんやりと服を見ていたとき、ふと気づいてしまった。

あと何年かしたら、あの憧れの服は着れない歳になってしまうんじゃないか。

もちろん、いくつになっても自分の好きな服を着ればいい。だけど、似合う似合わないの問題がより一層出てくるだろう。今はまだ着れる。憧れを憧れのままにしておきたくない。

肩のあいた服を検索してみた。やっぱりかわいい。わたしがよく行く店でも売っていた。ニットもかわいいけれど、薄着になる夏場が取り入れやすそうだ。ちょうど店頭に早めの夏服が並ぶ時期だった。

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コロナ禍のマスク生活も背中を押してくれた。わたしはマスクをつけていると得をするタイプだ。マスクを外してがっかりされるのが怖いというデメリットはあるけれど、マスク姿のわたしはきっとかわいい。きっと似合う。

一番好きなお店に行き、これまで手に取ることもしなかった肩あきワンピースを試着してみた。
カーブを描いた切れ込みが肩を華奢に見せてくれるデザイン。がっつり開きすぎていないところも初心者のわたしには好ましかった。袖口のゴムのおかげでふっくらした生地が二の腕を隠してくれる。サイズもぴったりだ。ドキドキしながらレジに向かった。

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帰って家族に見せると、あっさりと「かわいいやん」と言われ拍子抜けだった。変に思われるかもと勝手に怖がっていたのはわたしの自意識だったのだ。

自分でもすごく似合っていると思う。着ているといつもと違う感じがして好きだ。心なしか背筋が伸びる。夏場の楽しみなお出かけには毎回着たくなるとっておきになった。
憧れに一歩近づいたわたしは、お気に入りの服を着て堂々と歩く。次はどんなおしゃれをしようか。