「免税されますか? タックスフリー?」

インバウンドのお客さんが多い店のレジでは、このフレーズがしばしば使われることだろう。私が勤務するこのホビーショップもそうだ。
「イエス」と頷くお客さんからパスポートをお預かりしてページを開き、専用の端末でスキャンして必要な情報を読み取っていく。パスポートの記載を検めたら、お買い上げの商品の情報を入力していく。

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商品情報の入力をちまちま進めている私を見て、お客さんが外国語で何か話しかけてくる。私の隣で業務を補助してくれている英語の得意なスタッフが、何か返事をしている。するとお客さんは納得したような顔つきで頷き、再び私の方を見つめた。
おそらく、「彼女は、どうしてレジ打ちに時間が掛かっているのですか?」「免税の処理のために、お買い上げの商品を一点ずつ入力する必要があるからです」という感じのやり取りだったのだろう。
端末への入力がようやく終わると、レジの金額表示が「税込価格」から「免税価格」に切り替わる。お客さんはそれを見て、それはそれは嬉しそうな顔をしてから、財布から代金をいそいそと取り出し始める。

近頃のレジはどこも自動精算が当たり前だが、私が働くこのホビーショップのレジは未だ自動化されていない。商品の価格の入力も、代金の入金も、お釣りの出金も、全て手作業だ。更に免税会計となれば、レジだけでなく専用の端末にも会計の記録を残さねばならない。もちろん、その端末でも商品情報は手入力。レジに入力した内容をもう一度入力しないとならない。
「免税処理」ひとつのために、工程数は二倍に膨らむのである。3点ご購入なら6点分、50点ご購入なら100点分も項目を入力しなければならないのだ。
そんな風に随分とアナログな作業なので、会計待ちのお客さんはすぐ長蛇の列となり、「まだ終わらないの?」という声がしばしば聞こえてくる。流石に「この作業、もっと簡略化できたらいいのにな」と思う。

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それでも、私はレジ打ちが好きだ。

このショップが取り扱う商品は多岐に渡る。CD、DVD、ブルーレイ、フィギュア、ゲーム、ぬいぐるみ、おもちゃ…。どれも「誰かの大好きなもの」であり、「日本に来ないと手に入らないもの」でもある。
日本は言わずと知れたキャラクターコンテンツ大国だ。アニメ・ゲーム・マンガなどのいわゆる「ニッチでオタク向け」な限定的なコンテンツに留まらず、「ゆるキャラ」「サンリオ」「ポケットモンスター」など、日本人にとっての国民的キャラクターたちも、世界中で広く愛されている。
この小さな島国は、「世界中あらゆる人たちの聖地」と言っていいだろう。

インバウンドのお客さんたちは貴重なお金と時間を使って日本へ上陸し、このショップのことも下調べした上で、慣れない土地を歩いて来店してくれる。しかしショッピングはそれからが本番。日本語しか話せない、英語が話せたとしても片言。そんなスタッフに対して翻訳アプリを使って話しかけ、商品の画像を見せ、売り場を案内され、ようやく欲しいものを手にすることができる。

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そうまでして出会えた代物に、一体どれだけの価値があるか。
きっと、商品の価格そのものや為替レートには置き換えられないくらいの、大きな価値に違いない。彼らがここで買い物をした瞬間、私のように日本から出たことがない人間には想像もつかないくらいの価値が、彼らの手に生まれるはずだ。「ありがとうございました」とショッピングバッグを手渡した瞬間、お客さんの笑顔からそれがありありと伝わってくる。
そんな風に誰かの幸せを一番近くで見られるから、この仕事が好きだ。
日本での買い物に少しでも喜びを上乗せできるのなら、面倒で時間のかかるレジ打ちも、商品一点一点に行う免税の処理も、苦にならない。

後ろでお会計を待つ日本人のお客さんたちはきっと、「回転の悪いレジだ、早くして欲しい」と思っているだろう。でも、海外から来てくれた人たちは、会計の待ち時間とは比べ物にならない時間を使って、この国へ来てくれているのだ。待たされるのは煩わしいだろうけれど、誰かの幸せにつながっている時間でもある。文句を言いたくなるかもしれないけれど、どうか少しだけ、寛容な気持ちでいて欲しい。

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世界中の人たちの好きなものが集まり、来た人全員が笑顔になって帰っていくこのショップは、まるで「聖地」だ。そんな場所で、言語や文化の壁を超え、レジを通じて自分の手で「幸せ」を提供する。

これ以上誇らしい仕事は他にないだろう。