「仮面を外したいように見える。本当にやりたいことはなに?」

1年前、今の彼に言われた。私は本心を隠して仮面を被り、理想像になりきって生きていた。そのことに誰にも気づかないから理想像を上手く演じられていると思っていた。でも仮面の存在に彼は気づいたのだ。

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私は学生時代、いじめや部活などで人間関係悩まされてきた。特に吹奏楽部の世界はすごくて、酷い時にはストレスから過呼吸で倒れたこともあった。ストレスで倒れてしまうような弱い自分が嫌だった。それでもその環境で生きるために、弱い自分を武装するようになった。自信が無いと上手く見えない。だから自信があるように魅せる方法を習得した。他人の「いいな」と思う部分を自分に取り入れようと努力した。そうやって弱くて自信のない自分を隠し、私の理想像へと近づいていった。

本心を隠して仮面を被った大学時代は平穏だった。サークルではそれまでの自分みたいに苦しむ人が現れてほしくないために、私が最後の砦のような存在になろうと思った。その結果なのかサークルではよく頼られ、相談事も尽きず、なんでもできる人みたいになっていた。最後の砦にもなっていたと思う。そう、私は理想みたいな人になれた。それなのになぜか心は苦しかった。

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1年前、彼に言われたのだ。

「他人のいいなと思う部分を取り入れるのは自己否定をしていない?夢も偽っていない?本当にやりたいことはなに?仮面を被って隠さないといけなかったんだね。でもの今あなたは仮面が苦しそう。その仮面を外したそうに見えるよ」

必死に隠して仮面を被って、上手に演じていたはずなのに、仮面の奥にある弱くて自信がなくてネガティブな私の姿を、彼は見抜いたのだ。正直怖かった。過去の話なんて1つもしたこと無かったのに、なんでこんなに見透かされているんだろう。そしてこんな弱い自分は嫌われてしまうのではないか、見限られてしまうのではないかと不安に襲われた。

私は大学4年間、仮面を被った偽りの自分を生きていた。だから自分の本心も、性格も好きも嫌いも、分からなくなっていた。「偽っている」と言われてしばらくは酷く落ち込み、自分という人間に絶望していた。本当の自分、本心が分からなかった。でも彼は「どんなあなたでも評価するから」とも言ったのだった。

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その言葉を信じ、この1年は自分という人間の輪郭を探し続けた。やりたいことはまだ見つからない。でも彼と対話を重ねる中で、隠してきた本心が少しずつ見えるようになってきた。

偽らない真の私の姿を知っても、彼は離れなかった。そのおかげで偽らなくても、ありのままの私で生きていける、生きていいんだと思えるようになった。私の性格も性質も、なにもかも根っこの部分は何も変わっていない。ただ、ありのままの姿でいられるようになった。

根本は何も変わらない。でも物事の捉え方は少しずつ変わってきていると感じる。世界は広いことも知った私は、価値観の合う人も合わない人もいるのがあたりまえ。キャリアの進む道は十人十色。だから一定数の人に嫌われてしまうのは、キャリアの進む速さが違うのは、仕方のないことなんだ。そうやって自分と他人の境界線を引けるようになった。

他人と比較する必要のなさも分かった。新卒2週間で超早期離職した私は、前職の上司に「繊細過ぎる性格は直さないといけないね」と言われても、その場で私は繊細でいると誓った。転職活動の面接官に「そんな甘い考えじゃビジネスできない」と言われても、自分の価値観に合う企業を見つかるまで探すし、ないなら作ると決めた。

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私は弱くて自信のない自分が大嫌いだった。今もその部分は嫌に思う。でも妥協できない性格や繊細さは好きだ。性格なんてきっともうほとんど変わらない。その事実に絶望していたけれど、考え方やものの捉え方はまだ変えられる。そう、私はまだ変われる。変われることが私の今の生きる希望だ。

これから私は仮面を外した、ありのままの等身大で生きていく。