数ヶ月ぶりにまつ毛パーマの施術を受けるべくまつ毛サロンに行った。サロンは県庁所在地、駅の近くにある。県内では都会といえる場所のマンションの1室だ。
と、その前に駅ビルの9階にあるカラオケで2時間熱唱した。最近、ポケカラというアプリで自分の歌声を家で録ってアップしていたところ2ヶ月でフォロワーが300人を超えたのが嬉しくて、家よりも大きな声が出せるカラオケで歌の練習をするためだ。
声が枯れるほどに歌った後、予約していた14時にサロンへ向かう。透明なビルの隙間からは強い陽がさしていた。
オーナーは中国人の女性だ。もの柔らかい感じで、その上必要最低限以外の会話がないのでリピートしている。
前回よりも少し強めにパーマをお願いした。施術後鏡を見せてもらうと、グンとまつ毛が上向きに上がっていて感動した。
「ありがとうございました。またお願いします」と言ってドアを開けてサロンを後にした。
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駅に着いて改札を通っていつものホームに向かい、電車に乗った。田舎のため、1時間に1本しかない。途中で乗り換えがあるものとないものがあるが、15時台は乗り換えがなく実家の最寄りまでそのまま行く。
この日の私はどうかしていた。何度も、いや何百回も乗ったことのある時間帯の電車だったのに途中で乗り換えるもんだと勘違いしてぶらり途中下車してしまった。スマホで確認するとあと1時間以上は電車が来ない。
「ならば仕方がない、歩こう」と思い、歩きだした。5駅分、10kmである。
うかうかしていた自分の判断ミスなのだから、鞭を入れるのにはちょうどよかった。
20分ほど歩くと、雨が降ってきた。幸い日傘を持っていたのでさしながら歩いていると、駅から遠ざかるにつれ草木が生い茂る道に入った。
自分より背の高い草を掻き分けて歩いた。すると、大きいバッタがズババババババと飛んできたりよく分からない小さな虫の大群が足元にうごめいていたり、狸のミイラが転がっていたりと、数時間前まで見ていた景色とはまるで違う光景が目に映って落差に疲弊する。
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両耳にさしたワイヤレスイヤホンからは藤井風が流れていた。シャッフル再生で「帰ろう」が流れてきて、テンションが上がったので国道349をステージにして歩きながら歌い始めた。雨の音でうるさいし、ドライバー達には聞こえなかったはずだ。
しばらく歩いていると、雨の中畑仕事をしているおじいさんの姿が見えた。近づくと、互いに礼をした。雨の中で頑張っていることでシンパシーを感じたのだろう。
3駅分くらい歩いたところで大きな橋を歩いている途中、雨が上がった。するとグッドタイミングで「何なんw」という曲の「ハレハレハレ〜」というフレーズが流れてきてドーパミンの分泌は最高潮に達した。またジャイアンリサイタルのように橋をステージにして歌い始めた。
2時間弱で家に着いた。ろくにお昼も食べずにいたためにかなり腹が減っていて、キッチンのラックに置いてあったサバ缶を白飯に乗せて勢いよくかき込んだ。なんだかとても、生きている心地がした。
メンタルが強いのか弱いのか、よくわからない。
洗面所の鏡に自分の顔を映すと、まつ毛はクルンと上を向いたままだった。草木や雨風にも怯まないたくましいまつ毛パーマ。そして、私であった。