私には、嬉しいことや辛いことがあった時に、真っ先に思い浮かぶ人がいる。
会いたい、話したい、連絡を待ってしまう相手だ。
連絡が来ると、ものすごく嬉しいし、遊んだ際に撮った写真に写る自分の表情は幸せそのものだ。友達にも家族にも私はつい、彼女の話ばかりしている。

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彼女との出会いは、10年前のネットの掲示板だ。
同じ趣味を持っていたことや、素直で独特な文章に惹かれたことから、仲良くなりたいと思った私は猛アタックをした。投稿にコメントをし、彼女がTwitter(現X)を始めたと知れば、それまでSNSの類を一切していなかったが、アカウント作成した。徐々に連絡する回数を増やし、電話を数回した後、実際に会うことになったのは、掲示板で知り合ってから1年半後のことだった。

こうして書くと、出会ってからずっと私は彼女に恋をしているように感じる。
実際、「恋愛感情として好きなのかもしれない」と考えたことが何度かある。だって、あまりにも私に彼女の存在が大きすぎるし、影響力がありすぎるから。
ドラマや本の中で『好きだと気付く瞬間』として、「ふとした瞬間や綺麗なものを見た時に知らせたくなる」というのがよく描かれる。それらを見るたびに彼女のことを思い出しては、「今ドラマ観ていて、思い出したよ」と連絡してしまうのだった。

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でも、私にはいまいち恋愛感情というものが分からない。
20代後半のアラサーだが、誰かと付き合ったこともなく、恋愛経験もない。他者に対して、恋愛感情や他者に対して性的欲求を持つということが分からないのだ。

「同性の友人 好きかもしれない」とネットで検索をすると回答として、出てくるのは、「その子とキスしたいとか性的関係を持ちたいと思うか」という観点が多く挙げられた。私にはそれがピンと来ない。髪に触れたとき、もっと触れたいと思った気もするけれど、キスとか性的関係に関しては想像が出来ない。だから、きっと友愛なのだろうと思う。

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それでも一時期、はっきりさせたくて、レズビアンバーやアセクシャルのオフ会などに行ってみたり、関連する動画や本などをひたすら見たりした。何か分かるかもと思って、異性同性関係なく、マッチングアプリを使って恋愛してみよう!出会おう!と試みてみたこともあった。でも結局、彼女よりも興味を持つことも、話したいとも、会いたいとも思わなくて、ただただ苦痛になり早々に辞めた。彼女の存在が大きいことをただ再確認するだけだった。

こうして考えていること自体が、彼女に対しての裏切り行為なような気もして、今年の春、「今年一緒に行く予定の旅行計画を白紙にしてほしい」とお願いした。今後遊びに行くことや、会うのも控えよう、と考えた。
けれど無理だった。分かりやすく心身不調になった。旅行の約束が楽しみだった私は、頑張れなくなってしまったのだ。もちろん、仕事の負担やそのほかのストレスがあったことも影響しているけれど。

彼女は、理由もなく旅行のキャンセルをしてもなお、こちらを気遣う優しい言葉かけや、いつも通りの日常の報告lineをくれた。私は彼女が旅行を心の底から楽しみに計画してくれていた時のことを思い出し、激しく後悔した。

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現代社会、様々なセクシュアリティや生き方が認識されるようになれるようになった。
同性同士の恋愛、性的関係がない結婚、友人同士で生涯住む人、おひとり様など、多様な生き方があり、自分に合う生き方をすればいいことも頭ではわかっている。
それでも、まだまだ少数派であり、異性間の結婚や恋愛が必須のような圧を感じてしまう。
また、恋愛には性的欲求が伴うことが当たり前だと信じて疑わない人が多いことも実感としてある。「友情」よりも「恋愛」が上などと順がつけられることがあることも私を苦しくさせた。

けれども、ふと思い出す。私がまだ彼女に対しての感情について悩むよりも前に、「恋愛が私、分からないから知りたくて、色々本を読んだり、調べているんだよね」と相談したことを。
その時、「知ろうとしなくてもいいんじゃないの」って、さらっと何事もないように言ってくれて救われたことを。
また、出会った当初くらいの時、「『友達』とか『彼氏』とか分かりやすく括る言葉を使うことに抵抗がある」と話していたことも。

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いつかその子が結婚する、恋人ができたというような話をしてきた際、私はどういう感情になるのだろうか。嫉妬をしたり、距離が出来たりするのだろうか。そうなることは少しだけこわい。でも、その時、また考えればいい。

彼女に対しての重すぎる感情は、恋愛感情なのか、友愛なのか、わからない。
でもそれでいいじゃないか、と思う。

一緒に旅行に行きたいから行く。連絡したいからする。
今日もお互いに食べたもの、飲んだもの、今いる場所などを報告しあう。
彼女が頑張っている日常に、少し離れた場所からエールを送る。そして、私も今日一日がんばって生きてみようと思う。

夏の終わる頃、彼女に会えることになった。その日が今から待ち遠しい。