「明日は11時からバイトだから、9時半に出るとして8時からアラームをかけとけば間に合うか」
深夜3時にお風呂から上がって、流石に寝ないと間に合わないからスマホのアラームを10分おきにセットする。
大学1年の秋から大学3年の今まで働いている、大学内のカフェに行く準備を整えて「明日は誰と一緒かな」と気持ちをワクワクさせる。
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「かわいい」と言われて嬉しい時は、普段より時間をかけて自分を着飾った時だ。バイト仲間の女子に言われる「今日の〇〇かわいいね〜」に何度にんまりさせられたか。
正直、バイトならTシャツで適当に済ませたいタイプの人間だ。すっぴんでもいいくらい。
それでも、自分の出勤する日にバイト仲間の女子が同じ時間に入っていたら、ちょっとでも「かわいい」姿で一緒に過ごしたいと思うのだ。
飲食店でバイトをしているからできることには限りがある。とは言っても、働くカフェは髪色やネイルは自由だから髪を真っ赤に染めたり、ネイルもバッチリ決めたりしていい。そのため、バイト仲間もおしゃれで個性的な人が働いている。
この自由さに惹かれてこのバイトに入ったが、髪を痛めたくないのと爪の手入れをするのは面倒だったから、自分は今まで染めても茶髪で爪も自爪のままだ。
面倒くさがって適当にポニーテールと白Tシャツで済ませる日は、ダサいなぁとテンションも上がらない。
自分にできる「かわいい」は、いつも付けないヘアピンをつけること、髪をツインのお団子にすることくらいだ。これでも自分の中では「かわいい」を演出しているつもりだったし、モチベーションも上がっている。
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自分を「かわいい」で着飾るのには、理由があると思う。
寝られるなら時間ギリギリまで寝たい派だから、ちょっと時間をかけたメイクや髪のセットで遅刻しかけることが何度もある。
それでも、「かわいい」って言われたいと内心思ってしまう。
この気持ちが生まれるのは、言ってもらいたい相手に魅力があるからだと思う。
それは、バイト仲間の女子だろうが彼氏だろうが変わらない。その人の自慢になりたい。カッコかわいい憧れのあの子に褒められたいという承認欲求にかられるのだ。
じゃあ、「かわいい」って言われなかったら?
時間ギリギリでも、「もうちょっとキラキラさせたい。どうしよう、やっぱり髪上げようかな」とか考えてやってしまう。遅刻しそうで走って崩れても仕方ないと、この時の自分は考えられてない。こうしてできた「かわいい」にやはり相手は気づいてくれないのだ。
「かわいい」という言葉一つで承認欲求を満たすことができる。でも、言われなかった時に「頑張って準備したのになぁ」とか、相手に期待していた自分に気づいて帰り道にため息を吐く。
「こうだから自分は『かわいくない』、本当に『かわいい』人は心にも時間にも余裕があるから『かわいい』を演出できるんだ」
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自分は頑張りすぎていたのかもしれない。
短時間で用意をすることや、咄嗟ににこうしようとアレンジできる力が自分には持ち合わせていなかった。
だから、朝やっていることを前日に済ませたり、「かわいい」物をカバンに忍ばせたりすることから始めた。こういうことは誰にも見られない。でも自分を少しでも認められるように努力することで、自分が期待している「かわいい」という言葉をもらうことと、自分の中の「かわいい」人になることに近づけると思う。
まずは、誰かから「かわいい」って言われることより、自分から「かわいい」をもらえるようになりたい。