私は美術展や展示会に行くのが大好きだけれど、しばしばモヤモヤに襲われる。その理由は、会場内に立ちはだかる見物客の列だ。展示物と並行してびっちりと1列が出来上がっていたりする。私はこれを見て、いつも疑問に思ってしまう。「これって並ないとダメ?」

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こういう展示会に行くと、列に並んで鑑賞する人と、列に並ばず、点々と鑑賞する人に分かれることがある。会場としてのルールに違反していなければ、本来自由に鑑賞できるはずなんだろうけれど、私はいつも頭を抱えてしまうのだ。

最近、訪れた展示会の話。私が訪れた日は日時指定制だった。あらかじめ、チケットを購入し、決められた日時に会場に行く流れ。指定された時間になると案内され、同じ時間の人が会場へどっと押し入る。ここで起きるのは、入口の大混雑。スタッフの方もそれを見越してか、親切にもこんな言葉をかけてくれた。

「入口は大変混雑しますので、どうぞお好きなところからご鑑賞下さい」

それを聞いて、私は大変ありがたいと思った。そして、入口は後回しにして、少し奥に進むことに。

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奥に進むと、もちろん人がいることに変わりはないけれど、入り口ほどの大混雑はない。ホッとしたのもつかの間、さらに奥へ進むと、例の列が!私はあちゃ~と思った。展示会といえば、この現象……一体どうすべきか。しかし、私は、入口で聞いたスタッフの方の言葉をそっと思い出した。そして、それをまるで味方にするかのように、列がないところを狙って鑑賞するようにした。中には私と同じような行動を取っている方もちらほら見かけた。

そして、しばらく鑑賞した後、私は列を見ながら、皆が進む方向と逆方向、つまり、入口へと進む。入口に戻った途端、驚いたことに誰も見物客がいない。さっきは、あれほど人で群れていたのに今や、もぬけの殻……スタッフの方はこれを知っていて、あの言葉をかけてくれていたのか!と納得した。その展示会は、一部を除き、写真撮影がOKだったので、私はすかさず写真を撮る。もちろん、その写真には誰も映り込んでいない。奇跡だ。

私がそうこうしていると、何やら一人の男性客が奥から逆戻りしてきた。そして、私と同じように写真を撮る。私はそれを見て、きっと、この人も私と同じ考えなのかもしれないと思った。大多数の人とは違って、一人、逆の行動をしていた私。それは私だけではなかったんだとほんの少し謎の安心感を抱いた。

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結局、大満足で会場を後にしたのだけれど、なんか引っ掛かる。私の行動……決してルール違反ではないけれど、状況的にどうなんだろうという気持ちに襲われた。私はスタッフの方がご厚意で発して下さった言葉に従ったまで。でも、世間的にはどうなのか?という疑問があった。大多数の人が列に並んでいた……いや、自動的に列になっていただけなのだろうか?皆、順番通りに鑑賞しようとする結果、それが集団となって列になっていたのだろうか?そうすると、私は集団には属していないことになる。けれど、ルールは犯していない。ルールと集団が対立している……そこに深い意味はないのかもしれないけれど、事実であることは間違いない。

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私が特に美術展や展示会に行くと目の当たりにすること。それは、「ルール」と「集団」の対立だ。そして、そのどちらに従うかの葛藤が始まる。果たして正解はどっち?と決着をつけたいところだけれど、おそらく正解はないように思う。会場の決められたルールの範囲内でお互い気持ちよく鑑賞するのが本来のゴールなのではないだろうか。

列に並んでいる人の心理は、どのようなものだろうか。並びたくないけれど、単に他の人が皆並んでいるからという理由で不本意ながらそうしているだけかもしれない。はたまた、「並ぶべきもの」という固定概念のもと並んでいるケースもあるかもしれない。いずれにしても、せっかく鑑賞するのだから、良い気持ちで帰りたいもの。この問題は、なかなか難しい。