あの子の存在。今の私の精神的支え。
唐突なのだが、私の中には複数の人が存在する。人はそれを人格と呼び、障害と呼ぶ。
私には好きな人がいた。今年の三月ころ、ネットで出会った人だ。でもそれは叶わない恋だった。きっとそのころから狂っていたのだろう。
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私の中の人格の自己主張が強くなり、ばらけていったのだ。
この子が好きなのはA、あの子が好きなのはBといった具合に。「大切」がばらけていったのだ。最も、中心人物たる三人の好きは変わらなかったけどね。
人から見たら浮気性でしかない自分。そのことを何より自分自身が悔い、嫌っていた。反吐が出そうだ。
そんな時だった。彼に出会ったのは。仮名を水無瀬とする。
出会ったのは今年の八月。あるSNSは音声で話す機能があり、セリフ検索したときに入った枠で知り合った。
その枠自体はセリフ枠と言っても言うほどセリフをしてなかったのだが、水無瀬はセリフが好きだったらしい。後から聞いたのだが、私のようなセリフを本気で楽しんでいる人にこの枠はもったいないと思ってくれたらしい。
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フレンド申請はすぐに通り、メッセージを交わした。その中でこの人もセリフが好きな同士だと思った私は、個人で電話しないか持ち掛けた。これがすべてのはじまりだった。
いざ電話をしてみれば、面白いこと、楽しいこと。
セリフ界隈に常駐していただけあって話が合う。セリフを言えばセリフがアドリブで返ってくる楽しさ。セリフを読むのを楽しんでいるのが伝わる嬉しさ。とても素敵だった。
セリフと言えば恋愛ものもよくする。その流れで互いに好き好き言いあっていた。
言いにくい話だが、私は昔、年齢制限がかかるようなセリフも読んでいた。そして彼も同じだった。だから途中からテンションがおかしくなり、そういった類のもアドリブでしあっていた。
そんな中、互いに気が狂っていったのかもしれない。好きという感情が芽生えだした。これはセリフ中の錯覚で、終わったら醒めるかもしれない。そう思いながらもやめられなかった。求めてしまった。
だって、その時は本気で好きだったから。
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それから一夜明けたが、気持ちに揺らぎなかった。けれど私の中の子には問題がある。付き合うまで至らなかった。相手とセリフで繋がったからこそ、本気の恋かわからなかったのもある。
それから一週間ほど、毎晩のように話し、いつの間にか依存している私に気づいた。彼の言動に一喜一憂する自分にも、素でいられる自分にも。水無瀬が私たちを受け入れてくれていることにも気づいた。
その時の喜びったらありゃしない。
少々長くなるかつ関係ないので割愛するが、水無瀬とはお付き合いできることとなった。私の中の子たちは説得し、何とか同意をもらったうえで、だ。
あの子の存在。それは私たちの理解者にして、支え。
彼がいなかったら生きていけないと素で言えてしまうほどには、盲目的に愛しているだろう。もっともこの場合の生きていけないは、人格の眠りを表すわけだが。
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彼がいたことで私の中に眠っていた欲望も、渇望も解放できた。愛にも欲にも飢えていた私たちに気づかされた。
今は素直に言葉を発せられるし、甘えもできる。隠すことも嘘をつかなくてもいい。素でいられる喜びを彼から教わった。
と言ってもネット恋愛。まだ一度も会ったことがない。これを書いている今日、初めて会うこととなっている。
どうか互いに好きでいられますように。これからも傍にいられますように。水無瀬だけの自分でいられることを願って、筆をおく。