社会人一年目の頃、突然私は不眠症になった。理由は、一人暮らしの寂しさと仕事の影響で明日に恐怖を抱き始めたから。仕事は看護師をしており、毎日が業務に追われる日々。一つ一つの医療行為に伴う責任の重さから、少しずつ心がすり減っていき、もし失敗をして患者さんに何かあったらどうしよう、そう思うだけで言葉に表せられない不安が自分自身を襲っていた。家に帰ったとて家族も誰もいない空間では、溜まりきった疲労は回復することなく更にストレスを募らせていった。冷たい部屋の中、一人暮らしとは本当に辛いモノだと感じた。もしこの時、家に誰かが居れば少しは心が安らいだのかもしれないが、人に悩みを打ち明けるのが苦手な私は、この真っ暗な部屋で恐怖と不安に耐え続けることしか出来なかった。
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そのうち明日が来るのが嫌になった私は、朝日に抗うようにSNSやマッチングアプリで知らない誰かと話して気を紛らわすようになった。睡眠時間が数時間の状態で仕事に行った日は何度もあったけど、寝ない方がほんの少し心が楽になれた。自律神経は乱れ、体は重たく、食欲はないけど明日が仕事の日は眠りたくなかった。だってそうしないと、直ぐに明日がきて恐怖と不安の中で戦わなきゃいけないでしょう。
単純に明日が嫌で眠りたくないのと、明日の仕事の為に寝るという行為が納得できなかったのもある。今思えば従順に仕事の為に眠る、それが嫌で抗う気持ちも心のどこかにあって、所謂社会への無駄な抵抗だったのかもしれない。その頃の私はとにかく夜が好きで、外は勿論暗く静かな世界はとても心地が良かった。昼間の忙しなさと違い、上手く息ができ、自由に好きなことをする、この夜がずっと続けばいいなと思っていた。でも、突然眠たくても眠れない日々が始まった。明日は重症患者の受け持ちやCVカテーテルの介助等普段よりも気を抜けない業務なのに、焦れば焦る程眠れなくなり、その日は一睡もできないまま仕事に行った。仕事が終わった夜はボロボロで、一晩中泣いて泣いてそのまま眠りについた。
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初めて寝れない夜に後悔をし、それが何度も続き、仕事も休みがちになっていった。一睡もできない日が増え、自分でもコントロールが出来なくなったので、メンタルクリニックに行って眠剤を処方して貰った。今思えば、きっと寝たくないと思ったあの日から心は限界だったのだろう。それでも、この頃の私は、眠剤を飲まず自力で眠れるように努力していたが、染みついた朝への反抗心は消えることなく、結局は眠剤を飲んで生活する日々に変わっていった。寂しさも薬の量が増すのに比例して、マッチングアプリで男漁りをして名前も知らない誰かとメッセージや通話を沢山した。きっとこの頃の私は、ただ心にもない愛情が欲しくて、こんな中でも頑張っている自分を認めて欲しくて、埋まらない寂しさに怯えていたのだと今は特に思う。
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寝たくない夜は夜更かしとは違うモノだと、この時改めて感じた。明日が楽しみで眠れないとか、緊張で眠れないとか眠れないにも色々な意味がある。しかし私の場合、最初は不安で眠れなかった事が後からそれを体が当たり前だと勘違いをして、夜の10時を過ぎれば胸が痛くなるほどの動悸が呼吸のように始まるという、バグった日常に変わっていった。こんな日々を繰り返して体がもつ訳もなく、私は約2年で転職を決意した。
今でも自律神経の乱れにより、一睡も出来ない日はあるが以前よりは眠れている。もし眠れない夜を過ごしている人が居たら、その夜を思う存分堪能して下さい。何をしてもどうせ眠れないのなら、少しでも心が安らぐ夜を過ごしてみて欲しい。例えその後体に異常を来たしても、憂鬱な明日を迎える時の辛さ程ではないかと私は、思うので。