旅に出たい、と日頃よく考えている。学校行事以外で飛行機に乗った事がなく、地元を離れて生活をした事のない私にとってあまりにも非日常で想像する事が難しいものだった。知らない、という事は恐怖も同時に感じるもので、憧れはありながらも知らない土地に飛び込む勇気と旅費の工面が出来ずうじうじと過ごしていた時、上京した友人から「お金がないなら家に泊まりなよ。東京に来た事まだないんでしょ、楽しいよ」というありがたい誘いを受けて修学旅行以来、10年以上ぶりに飛行機に乗り、3日間を過ごした。

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旅行へ行く前に想像していた以上に、楽しい場所で一気に東京が好きになった。まだ夏の暑さが厳しくなる前かつ花粉の飛散時期とずれていた事もあって、天候に恵まれ快適に過ごす事が出来たのもある。それでも予想外に楽しかったのはきっと、自分が思っていたより怖い場所ではないという事が分かったからだと思う。

私の母も祖母も東京に行った事がある(といっても50年ほど前)からか、テレビで映し出される東京の景色を見る度に「ごみごみしていてどこに行っても人がいっぱいで、そんなに楽しい場所じゃなかった」と口にしていたからマイナスイメージを無意識に持っていたのかもしれない。百聞は一見に如かず、とは本当だったなぁとしみじみ思いながら観光をたくさん楽しんだ。上野動物園、国立博物館、美術館……地元ではお目にかかれないものばかりで忘れないように目に焼き付けながら歩き、会わなかった時間を取り戻す様に友人と語り明かした。東京は空が狭くて綺麗じゃない、なんて聞いていたけど決してそんな事はなくゆっくり自然を眺めてくつろげる場所もあったし、確かに満員電車や東京駅の改札は経験した事がない程の人口密度で驚かされたけどその状態がどの場所に行っても続くわけではない。当たり前の事かもしれないけれど、実際に来て見なければ分からなかった。

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方向音痴で東京の路線図が迷路にしか見えない私は、旅行の1人行動中何度も人の優しさに助けられた。地元でさえ地図アプリが手放せない私にとって初めての街は未知数な事だらけで、自分の事もアプリが示している場所さえも信用できなくなって「ここに行きたいんですけど、この道で合ってますか?」と何度質問したか分からない。気づかないうちに遠回りしてしまい、15㎞以上歩いている日もあった。そんな風に自分の足でたくさん歩いて迷いながらも、知らなかった場所を少しずつ知れている様な気がしてなんだか楽しかった。迷子になりながらの東京散歩は、少しだけその土地の住民になれた様な不思議な感覚がある。映像でしか知らなかった場所を五感で楽しむ事が出来た。

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また近いうちに遊びに来なよ、と友人に言われて日が浅いうちにまた旅行計画を立てている。航空会社のホームページをブックマークし、前回時間が足りなくて行けなかった場所を書き留めて。以前の自分では想像できなかった新しい楽しみ。1番の憧れの地に行けたのだから別の場所でもいいのかもしれない。好きな街がまたひとつ増える楽しみも持てる。それでもまだ今は、旅行を経て初めて好きになった街へもう一度足を運びたい気持ちでいっぱいだ。