人生の門出に立ち会うお仕事って素敵だなあ、将来、そんなお仕事に就きたいなあ、とぼんやり考えていた高校時代。大学、専門学校、就職、もしかすると結婚も考えていた子もいたのかな。卒業後の進路を考えていた17歳の私は、ウエディングプランナーになりたくて、うずうずしていた。
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三者面談でオープンキャンパスに行ってみるのを勧められた私は、母とふたりで大阪にある美容学校のオープンキャンパスへ向かった。ちょうど夏休みだったので、猛暑の大阪を歩き疲れたのを今では懐かしく思う。高3になるとコロナ禍に直面したので、私にとって最初で最後に体験したオープンキャンパスが、美容学校だった。
専門学校の入り口に辿り着くと、黒服できりっと決めた学校の先生らしきベテランの方々が出迎えてくださった。憧れのなかで想像していた世界が、目の前にあることに少しだけ背筋が伸びそうだった。おもてなしの心をぎゅっと引き締めて、目の前にいる人の気持ちを全力で想像する。一生に一度しか訪れない晴れの日である結婚式では、絶対に失敗は許されないのだということ。オープンキャンパスでは、高校生ながら社会人としての心得を丁寧に教えてもらったのだと、今振り返ると、貴重な時間だった。
当時の私が憧れていたブライダル業界で活躍しようと励む、若干20歳の学生の皆さんの目は輝いていた。だけど、その輝きの裏には果てしない努力と、粘り強さがあるのだと、思い知らされたのだ。日々、おもてなしの礼儀を磨くために葛藤することをやめない強さは、しなやかな美しい精神を培っていくのだろう。
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そしてオープンキャンパスには同世代の高校生が来校していたのはもちろんだが、美容業界は性別問わず、美しいを追求することが求められるのだと感じた。こんな話は美容業界で活躍する方々にはめずらしくなく、どちらかというと基礎知識と捉えているはずだ。けれど当時高校生だった私は、すごく驚いたのだ。女性だけが美しい所作を磨くことや、ホスピタリティーを学ぶのではない。美容業界のプロフェッショナルを目指すことは男女問わずであって、むしろ女性の気持ちも男性の気持ちも聞き入ることができる人こそが、プロなのだと知り得たのだ。
憧れていたウエディングプランナーにも、そうした概念が通用しているように思えた。結婚式の主役はウエディングドレスを身に纏う新婦さんだけではなく、新婦さんと式に参列している家族へ人生の愛を誓う新郎さんも、主役である。だからこそ新郎目線での結婚式を企画進行することも求められているのだ。
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そのうえで欠かせないのは結婚式の知識だけでなく、世界中にある美しいものに触れることなのだ。憧れの先には美しいものが果てしなく広がっていて、それをどう感じても自由で、手で掴みきれないほどの「美しい」の中心に触れていく。そうすることでウエディングのプロへの道が開けるのではないか。
美容専門学校にいる学生さんやウエディング業界のプロである先生方の話を聞いている時や、ネイリスト科の体験授業を受けていると、私はそんな風に、憧れの世界の先にある、人生を想像していた。
その後、コロナ禍に見舞われウエディング業界は先の見えない道を辿ることになったけれど、美しい世界に身を置くことは自分の精神を究め、お客様の門出とこれまでの人生の歩みを想像することは欠かせない。もちろんそれが第一であるけれど、人の幸せを願うためには自分の幸せを磨き上げることも第一に大切なのだと思う。
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高校卒業後、芸術を学ぶ選択をした私は今でも、そうした人の気持ちを想像すること、美しいものに能動的に触れることは、自分の人生そのものを豊かにしてくれるのだと、実感させられるばかりだ。