中高生時代、私は非常にイケてなかった。
いや、別に今だって大してイケてないんだけど、当時はもっとイケていなかった。ヘアアイロンも上手く使えないし、さりげないスクールメイクなんて習得していなかったし、小太りだし。
飛び抜けて可愛くなくてもいいから、せめて普通レベルになりたい。常にそう思いながら過ごしていた。

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そんな私は中3のとき、高校受験のために塾に通い始めた。夫婦が経営している、小さな小さな塾だった。塾長が旦那さんで、それ以外の先生は奥さんのみ。授業は2人が暮らす家のリビングで行われていた。生徒も10人ちょっとしかいなかったと思う。
塾長は、私のことをかなり気に入っていた。ホワイトデーに私だけ手作りのホールケーキを貰ったり、辞めるときに何度も引き留められ、最終的に「無料でいいから来て!」と言われたほどだった。その様子については、以前投稿した「初めて貰ったホワイトデーは40代男性塾長の手作りホールケーキ」というエッセイでも書いている。

塾長はかなり分厚いフィルター越しに私のことを見ていたようで、ある日「私ちゃんって、堀北真希に似てますよね」と言われた。
顔写真を貼るわけにもいかないので示しようがないのだが、本っ当に、似ていない。整い方のレベルが天と地なのは言うまでもないが、そもそもジャンルが全く違う顔なのだ。可愛いか可愛くないか以前に、造形の方向性が違う。単に塾長が堀北真希を好きだったのだと思う。それは結構だが、一緒に授業を受けていた一個下の男の子にまで「似てますよね?」と確認しだしたときは背中じゅうに汗をかいた。

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高校に入学してから、この話を友達に披露してみた。笑いがとれた。
イケてない女が言う「堀北真希に似てるって言われたことあるんだよね」。雑な自虐ネタだが、周りの友人たちは優しいので笑ってくれて、卒業するまでこすってくれた。「堀北さんですか?」「なんで芸能界やめちゃったんですか?」など。

この経験を胸に、大学に入った。
ちなみに私は1年浪人してから入学したので、校則に縛られない状態でのメイクを習得するのが、現役の子達よりは早かった。また、浪人生活のせいか、高校卒業時から7キロほど痩せていた。
そして、自信を持ってあのネタを繰り出す。

「私って、堀北真希に似てるって言われたことがあるんだ」

……あれっ。
返ってきた反応は、微妙だった。高校の時とは違う、ちょっと面倒くさそうな感じ。

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何故だろう。少し考え、ある結論にたどり着いた。
高校時代、ボサボサ頭の芋臭い顔面から放たれる「堀北真希に似てるって言われたんだ」。これは、ネタとして成立していた。
しかし大学に入ってからの姿でこれをやっても、同じようには受け取ってもらえないのだ。もちろん堀北真希には遠く及ばないのだが、意図をくみ取ってもらえない程度にはマシな容姿になっていた。

つまり私は「堀北真希に似ていると言われたことを自慢したがっている、堀北真希には全く似ていない女」、ただのちょっと痛々しい女として受け取られるようになってしまった。

あんなに願っていた、普通レベルの容姿。いざ手に入れると、こんなデメリットがあったなんて。
かと言って、このひとネタのためにノーメイクで過ごす訳にもいかないし……。
失った日々は戻らない。今はただ、堀北イジりしてもらえていたあの頃を、懐かしむことしか出来ない。