「ブルーバイユー・レストラン」をご存知だろうか。東京ディズニーランドのアトラクション、「カリブの海賊」から見えるレストランの正式名称である。

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遠くに見える灯の正体を知った日から、向こう岸へ足を踏み入れることに憧れていた。存在を認識したのはたしか中学生の頃で、大学生になってもなお、1食に7,000円、恋人の誕生日に行くとしたら14,000円…?と、金銭的にも遠い存在だった。

26歳を迎えた昨年、誕生日の予定が直前まで決まっていなかったので、恋人を引きずってディズニーランドに行くことに。レストランの当日予約枠があることを知っていた私は、早朝からパークに入園すると、朝9時の予約開始に備えて準備を始めた。

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まずは、よりよい通信環境を求めて、人気のないシンデレラ城の麓へ。午後になれば日が当たるであろう薄暗いベンチに腰をかけた。そして、現在時刻をコンマ単位で確認できるサイトとにらめっこを開始する。9時ちょうどにサイトにアクセスし、空き枠を選択。予約者情報を送信するまでの間、息を止めていたのだろう。無事にランチの予約をゲットすると、上気した鼓動が酸素を欲していた。ひと呼吸置いて、シンデレラ城を仰ぎ喜びの声を上げる。

これまで見たこともなかった入口を探し回ること数分。ブルーバイユー・レストランに無事到着した。園内をぐるりと囲むパレードルートでは、開園40周年を祝うパレードの真っ只中。ハピネスがはち切れそうな爆音を背に、薄暗い店内へ足を踏み入れる。

運良く入り江のそばの席に通してもらうことができ、アトラクションからは一度見られるかどうかの流れ星をいくつも見つけた。ディズニーで初めてのコース料理。昔はアトラクション命だったのに、大人になったものだ。運ばれてくる絶品の料理と、灯りに照らされる恋人。その奥に広がる幻想的な景色を胸に刻んだ。

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デザートプレートまで料理を楽しんで、名残惜しいけれど席を立つ。レジがある出入り口近くへ歩を進めると、真っ昼間の日差しがドアの隙間から差し込んで来た。財布からクレジットカードを出そうとする恋人に、「私が払うよ」と声をかけた。

あの頃憧れることしかできなかった場所で、誰かにご馳走してもらうのではなくて、自分の手で、足で稼いだお金でごはんを食べることに意味があると思った。私の誕生日に、恋人にご馳走する意味はよく分からない。だけど、私が支払った2人分の料金は、私と、「カリブの海賊から見えるレストラン」に憧れていた頃の私との2人分だったと思う。

恋人はああそう?なんて生返事をしつつ、それなら、とスーベニアグラスを手に入れようとしていた。図々しさに笑えてくるが、普段物を増やそうとしない彼にとっても、形に残したいと思う日になったのなら嬉しい。

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スーベニアグラスを含めた会計を済ませ、キャストの笑顔に後ろ髪を引かれながら入り江を後にした。復讐やリベンジと似ているような、だけど根本的にベクトルが異なる感情。執着してきたものを手に入れた達成感が、脳から足先までを満たしていた。