雪が降るとなると子供の頃はあんなにテンション爆上げ侍だったのに、大人になるにつれて侍魂の灯火の勢いが衰えてきた気がする。

素直に「雪だ〜!」となっていたあの頃は、雪で運行停止になった交通機関の情報とか道路が凍るとかは他人事で、自分にとってはどうでもいいことだった。
大人になってくると関わる人もそれなりに増えたりして、やはりそういうことにも気を配っていかなければならない。だから、自分の嬉しい感情が先走る子供よりも理性が勝る大人というのは少しつまらないなとも思う。

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祖父母が父方母方どちらも東北のため、年末に帰省すると必ずと言っていいほどに雪が積もっていた。庭に出て遊んでいると屋根から落ちてくる雪の音が轟音で、恐ろしくなって家の中に引っ込んだこともあった。

雪だるま作りやかまくら作り、雪合戦など定番の雪遊びは遊び尽くしてしまった。
小学校の頃父親が大人が入れるくらいのビッグサイズのかまくらを作ってくれた時はとても嬉しくて、何度も入っては当時のガラケーで写真を撮った。

他に何か楽しめる方法はないかと思い、高さ30cm以上の降り積もった雪の中弟と思い付いたのは雪ダイブ。名前そのまま、雪の中にダイブするのである。前に倒れるのがスタンダードだが、たまに後ろに倒れるというのもあった。

何度も何度も、真っ新な平らな場所を探してはふわふわの真っ白な雪の中に身を委ねた。
もちろん顔から行くととても冷たい。でも顔がこんなに冷たくなるというのは普段生きているとなかなか起こることではなく、それがなんだか特別感があって好きだった。
大人に見つからないようにこっそり七つ年下の弟を庭に連れ出して遊んだ。まだ、「よちよち」という言葉が似合う可愛さであった。大人たちは久々に会ったからと話すのに夢中になっていて、その隙に秘密の雪ダイブへと誘ったのである。

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私自身の実家は関東で、帰省話を正月明けに学校の友達にすると「雪、いいな〜」と羨ましげに言われた。

実家の辺りで降る雪というのは粉雪で、パラパラとしていて積もることは滅多にない。たまに何年かに一度大雪になって積もる時がある。
粉雪も粉雪で、細かくて可愛らしくて好きだ。
冬の草花たちがお粉を叩いたようにちょっぴり雪化粧をするその様子を見ると、「あらあら負けていられないわね」と美容意欲が俄然増す。
というのは嘘だが、牡丹雪にも粉雪にも違った良さがあって甲乙つけがたい。きのこ派かたけのこ派か論争に近い。

今年はまだ雪を見ていない。年内に降るのだろうか。私と恋人の記念日だし、クリスマスにでも降ってくれたら風情があっていいのに。

人間、歳を重ねると子供の時のように無邪気になるとか言う。おばあさんになったら、またあの頃のように雪に飛び込んでいけるくらい無邪気になっているだろうか。

でも、その頃にはかまくらを作ってくれた父親や話すのに夢中になっていた大人たちはもうこの世にはいない。そう思うと、すごく寂しくなってしまう。何十年も後のことだが、年々一年が終わるのか早くなっている気がするからあっという間なんだろうと思う。
人生なんて意識しないと酔生夢死的に終わってしまうのだ。

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来年は文学賞の一つや二つ、取れるだろうか。また価値なしを突きつけられて、市井の一婦人としての平凡な日常を強いられるのだろうか。先日はある賞の主催者の方から「タイトルが衝撃的で面白かった」とわざわざお電話を頂戴し嬉しかったものの、日々自分との闘いである。

今はボツの原稿用紙がゴミ箱の中に降り積もる雪のように溜まっていき、出口のない迷路を彷徨っているような気分だ。雪よ降れ降れもっと降れ……。