新卒で入社した大手企業を半年で辞めた時は、この先の長い社会人人生を生き抜いていくことができるのか心配になったのを覚えている。

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入社したのは全く興味がない業界の会社。同期たちが商材の魅力を語り合う様子を見ながらおとなしく相槌を打ち、「OJTが終わったらどの部署に行きたいのか」というプレゼンテーションに向けて、ない理由をかき集める作業を行っていた。

そんな日々は私の体にも影響を及ぼした。夜は眠れなくなり、朝は寝坊が増え、思うような生活を送れなくなった。メンターには3分の遅刻をメールでたしなめられ、面談では「その部署のどんなところに興味があるの?何がやりたいの?」と問われ、その場しのぎの理由を作り続けた。

ある日、気の置けない友人と久しぶりにご飯を食べていたら、緊張していた体と心が緩んだのか、動悸を起こしてしまった。もうダメだ。そう思った。「3年は我慢しろ」というよくあるフレーズも降り注いだ。それでも私は、私自身を守るために退職した。

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もしかしたら、そもそも仕事をすること自体が自分に向いてないのではないかという不安をも抱えていた。そんななか、せっかく大企業を辞めたのだから、という自分なりにこじつけた理由でほとんど趣味に近い、世の中的には不安定な業界の有期雇用の募集に飛びついてみた。

「ちゃんとした仕事が見つかるまで」。そんな思いで入社したその会社には、契約の延長を重ね、結果的になんと5年ほど在籍した。仕事をするのが向いていなかったのではなかった。興味がないことではないと頑張れなかったのだ。いろいろなタイプの人がいると思うが、少なくとも私は好きなことではないと頑張れないタイプだった。今はお世話になったその会社を退職し、フリーランスとして独立し、同じ業界で働いている。結局は“愛”が必要だったのだ。

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愛の力はすごい。仕事で終電を逃そうが、タスクに溺れそうになろうが、職場に嫌な同僚がいようが、結局は「私はこの仕事を愛している」。そこに帰着するのだ。

ただ、これは、私が全く愛を感じない仕事を経験することができたらわかったことでもある。もし順番が逆だったら、少々ブラックな働き方や人間関係に悩まされて、「ホワイトで高給料の仕事に転職してやる!」と一念発起していた可能性もある。

そう考えたら、1社目での経験は私にとって自分が愛するものを選ぶために、そして諦めないことを選ぶために必要な時間だったのだろう。それが半年で済んだ私はラッキーだったとも言える。

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もしこれを読んでいる若者のなかに、自分のキャリアで迷っている人がいるなら、一度自分が愛しているものを諦めずに追いかけてみてほしい。“愛”は仕事を超え、生きがいになる。生きていてよかった。そう思える仕事に出会えて、私は幸せだ。
生きていてよかったと思える仕事に出会えた今、次は「生まれてきてよかった」。そう思える仕事との出いのため、目の前の仕事に愛を注いでいる。