夫婦でも、言っちゃいけないことってあるんだと学んだ。
夫婦だからこそ、言っちゃいけないのかもしれない。

「私に言われても、そんなのどうしようもないよ」受け手にそう思わせてはいけないのだ。
結婚して、夫と毎日を一緒に過ごすようになって、仕事の愚痴も、今日Xで見つけた面白いことも、悩みも嬉しさも、全てを共有するようになった。

血のつながった家族にさえ打ち明けたことがない、むしろ打ち明ける勇気がない心の中のもやもやを、「この人になら言える」と思ったのが今の夫だ。

ある日、とても嫌なことがあって、電車の中で泣きながら夫にLINEを何通も送り、涙でマスクを濡らしたまま帰ってきた私に「これじゃあ、私、サンドバックみたいだよ」という夫の言葉を聞いて、ハッとした。
何でも言い合える関係が素晴らしいと思っていたけれど、ただ一方的に自分の思いをぶつけるのは違うことなのだと。

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私は結婚式の1週間後に大学院を受験した。そして、結婚式の1か月後に結果発表があり、合格だった。2025年4月からは、会社員と大学院生、二足のわらじだ。ただ、大学院受験については夫と大親友以外には秘密にしていた。
合格してから周りにも打ち明けようと心に決めていた理由はいくつかある。
倍率3倍と、ものすごく倍率が高い入試ではないけれども、それでも受験を宣言しておきながら、不合格と言うのは恥ずかしいから。
そして、真っ向から反対してくる人はいないだろうけれど、

「今さら大学院に行ってどうするの?」「出産のタイミングも考えないとだめよ~」

そんな声を聞くのが嫌だったから。

大学院の合格が決まってから、受験していたことさえ知らない両親に進学を伝えた時、目を真ん丸にして、驚いていた。両親は2人とも喜んでくれていた。勉強が好きな私らしいと思ってくれたのだろうか。
母は「大学院もいいけど、35歳以降は高齢出産なんだから、せっかくなら30歳までに産んでおくのよ」と言った。
父は私を駅まで送りながら、「こういうことはあまり言っちゃいけないけど、正直結婚しててよかったと思ったよ」と笑っていた。
父が言いたいことは分かる。偏見に聞こえてしまうけれど、20代半ばで独身の女性が、大学院に進学したら、きっとキャリアがどんどん楽しくなって、婚期が遅れていくだろうから。

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両親から言われたことが、血のつながっている家族から言われたことが、苦しくて、帰りの電車で大泣きした。これから書くことを夫にLINEで送りまくった結果、夫をサンドバックにしてしまった。

産みたくないわけじゃない。子どもがいるのも良い人生だと思う。
だけれど、女性だけが「30歳まで」「35歳まで」と言われ続けて、大学院に行くとしても、転職するとしても、人生のどんな選択肢をとっても「出産と子育て」がついてまわる。
積極的に子供を産まないという選択肢を世の中は許してくれないような気がしてしまう。
健康で経済的にも自立しているけど産まないという選択はエゴのように扱われてしまう。

子どもは好き。一緒に遊ぶことも、子どもの学習能力の可能性を感じることも、全部が面白くて、教育という分野が好きで、教員免許を取った。

ただ、姪っ子よりも、血のつながっていない他人の子どもの方が可愛く見える。
「子どもが好き」=「子どもを産みたい」ではないと思う。
自分の子供を産んで育てるとなったら、色々な不安がある。私だって、出産のことを考えていないわけじゃない。ただ、大学院で学んだことを仕事に生かすためにまた転職するかもしれない。もしかしたら博士課程後期に進むかもしれない。

私にとっては、私と夫の人生が大切で、そこに新たな要素を加える心の準備はまだできていないし、一生できない気もする。

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相手に気持ちを伝えることは大切だけれど、「子どもを産まないといけないというプレッシャーを感じる」という悩みを持っていることを共有できている以上、

「今日こんなことを言われて本当にショックだった」
「やっぱり世の中は優しくない」

と悲観してばかりのことを言うのは良くないのだと思う。

片方が片方にとってのサンドバックというより、お互いにパンチを出しあえるような、会話のキャッチボールを大切にしたいなと思う、新年の意気込みだ。