17歳のクリスマス、グラウンドで練習に明け暮れた私の頬に落ちた雪

高校2年生、17歳の冬。
クリスマスの日、私はグラウンドにいた。
冬休みに入る前、教室では楽しげな声が飛び交う。
「クリスマス何するの?」
「今年は彼氏と過ごすの」
「えっ、彼氏できたの?!」
暖かい教室の中で、それぞれクリスマスの予定について語り合う。
男性は教員のみという女子校では、彼氏を作るのにも一苦労。 みんな放課後様々な場所に出掛けたり、SNSを通じて出会いを繰り返していた。
そんな私が通う学校では唯一、学園に男性が入ることを許される日がある。
文化祭だ。
もちろん招待制であり、知り合いのみが入ることができるのだがほとんどの学生はこの日のためにオシャレしたりして首を長くして待っていたのである。
いつも一緒にいるメンバーの半分ほどが今年の文化祭でいい出会いがあったのか、ダブルデートする約束をしている。
ところで私はというと、その日も試合が重なり文化祭にも参加することはできなかった。年頃というのもあり、羨ましい様な悔しい様な不思議な気持ちになる。
「みきはクリスマスなにするの?」
「練習だよ」
私はソフトボール部だった。1年中日焼けした肌は真っ黒で、髪型はショートカット。全国大会に出ることを目標としたチームで、学校の中でも厳しい部活動として認知されていた。
「練習だよ」と言う自分の返答に面白さがないと感じたものの、 クラスの友達は褒めてくれ、応援をしてくれた。
年が明けてすぐの大きな試合のため、練習もクライマックスに入っていた。
朝、授業前に練習、授業後には夜まで練習。練習は毎日欠かさず続いた。放課後も友達と遊べる時間は少なく、練習に明け暮れていた。
クリスマスの朝、いつもより人が少ない電車に乗り込む。高校の近くは山があり一層寒く感じた。眠い目をこすりながらまだ冷えている部室で練習着に着替える。
いつものチームメイトがお互いにメリークリスマスと言いながら部室に集まり始めた。
恐らく高校生活の大半を家族よりもこのチームメイトと過ごしている。一緒に過ごしすぎて、顔も見たくない日もある。斜めがけの大きなエナメルのバックを持ち、少年の様な練習着にスニーカー。
みんなはいいなあ、今頃オシャレしてデートでもしてるんだろうか。
そんなことを思いながらグローブを手に取りグラウンドに出た。
いつも通りランニングし、体が暖かくなってきた頃監督が現れた。
生活指導も兼任しており、とても厳しい人だ。監督には家族があり、まだ小さい子供もいた。それでも今日クリスマスにこのグラウンドに来て、私たちを指導しに来ていることを不思議に感じた。
午前の練習を終えみんなで持ち寄ったお弁当を食べる。この時間が私は密かに好きだった。
夕焼けが土の上に綺麗に降り注ぐ。練習も終盤に差し掛かり、ノックが始まる。
誰もいない校舎を後ろにグラウンドでは私たちの声が響く。
「ラスト一本!!!」
「さあ来い!!!」
大きなフライをしっかりと掴んだ。
ノックが終わる頃、手は悴み、感覚も無くなっていた。
その時ほっぺたに冷たい何かを感じた。
初雪だった。
体は熱く冷たさが心地よかった。あっという間に周りは白い雪に囲まれ、何だか違う場所に来たかのような気分になった。そんな瞬間を大好きな仲間と監督と今過ごせていることに感謝したくなった。
こんなに練習しても、夢は叶わなかもしれない。
恋愛もクラスメイトと過ごす時間は他の子に比べたら少ないかもしれない。
でもこの仲間となら大丈夫。そう思いグラウンドを後にした。
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