一度だけ、かまくらの中で語り合った。あの子の夢が叶ってるといい
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雪の日ってだけで、ロマンチックな日になるような気がしていた。寒いけど、そこにはいつだってわくわくする何かがあった。
この感情がどこから来るものなのかわからないけど、小さな頃は寒くなると雪が降るのが楽しみだった。雪だるまやかまくらを作ったり、そのかまくらの中でおしゃべりしてみたり。雪が降ったらやってみたい特別な遊びがたくさんあったはずだ。
それなのにいつからか雪が天気の一つ、それもちょっと面倒な天気になった。
雨で休校になる事はなくても、雪が積もる事で休校になる事はあったから、うれしい事はそれくらいだった。
そして今、大人になるのはもっとつまらない事なのかもしれないと、天気予報で雪のマークが見えるようになると考える。どんな天気でも会社へ行く事に変更はないから、出社することを前提に、いかにして会社にたどり着くかを考える。人身事故や故障で電車が止まる事はあっても、車で通勤していた私は、よほどの事がない限りは、定時までに会社にいる事が求められる。季節や天候より、時計と道路状況で左右される日々だ。
私には雪に大した思い入れはないけど、忘れられない雪の日がある。
雪が降る地域で、水泳部だった私にとって、冬はオフシーズンだ。屋外のプールはもちろん使えない。体育館や武術会館はそれぞれの部活で使用されているし、雪が積もれば部活動は中止で、実質帰宅部と変わらない。
近くにスイミングスクールもあり、部活に力を入れていないくせにタイムは速い部員が多かった我が水泳部は、つまらない練習を与えようものなら何をするかわからない危険なやつばかりだった。
そんな中で、校庭の雪を一か所に集めて、固めて、その雪山に穴をあける。かまくらを作る事を、部活の活動にした顧問はきっと得意顔だと思う。今ならそう思うが、学生だった私も、部員と協力してかまらくを作るという雪が降った時しかできない特別な部活が結構好きだった。
何度目かのかまくら作りの後、出来上がったかまくらに色を付けるという遊びが追加された。美術部の子と一緒に準備をして、かまくらの壁に思い思いに絵や色を乗せる。きっと、数日で消えてしまうのだから、遠慮や戸惑いはなかった。
そんな部活の後、一度だけ、作ったかまくらに美術部の友達と残っておしゃべりした事がある。かまくらでおしゃべりする事にしたきっかけは忘れてしまったけど、幼稚園から中学まで、たまたまずっと同じクラスで、お互いに親友とはいかないまでも何が好きなのかどんな性格なのかだいたい知っている、そんな子だった。
中学2年、来年には、初めての受験。将来という言葉を少しずつ意識し始めた時だった。
その子は、留学がしてみたい、美容師になりたいと私に夢を語ってくれた。なんとなく、学力にあった高校、大学へ進学して、適当な場所へ就職するだろうくらいにしか考えていなかった私にとって、同級生の語った夢、そして語れる夢がある事は衝撃だった。
スマホも持っていないし、インスタも知らなかった時代。あの日に作ったかまくらはもうどこにもないし、彼女の連絡先もどこかでなくしてしまった。成人式には、わざわざ足を運んだと言っていたから、もう地元にもいないのだと思う。
でも、雪が降ると、あの日を思い出すし、彼女の夢が叶っているといいなと思う。
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