窓の輝きで目が覚めた。その日はいつもと違った特別な朝だった。

二段ベッドの上段から降りようとすると、頭は重く、体は熱かった。

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私の地元は雪が数年に一度しか積もらない。幼いころ、私は「寒いのに雪がないなんて損だ」と思っていた。雪がちらつけば、小中学生たちは一斉に窓の外を見てはしゃぐ。雪が積もれば、地元のニュースでは慣れない雪に翻弄される大人たちの姿が映し出され、外からはガラガラとチェーンを巻いたバスが走る音が聞こえた。

人生ではっきりと雪が積もったのを覚えているのはその日が初めてだった。

幼稚園か、小学校低学年のころだったと思う。
起きて一番に外に行きたかった。

しかし「今日はゆっくり寝なさい」。

体温計の表示を見た母が私に言った。

床に敷かれたお母さんの布団を使ってね、母はそう続けた。

「嫌だ!」

体調不良で機嫌が悪いうえ、初めて見る雪への高揚が台無しになったことへの悲しみから、私は母に反抗した。

隣で妹も駄々をこねる。妹も運悪く熱を出しており、安静にするよう母から言われていた。
二人でひとしきり駄々をこねても、母は折れない。

結局、私たちは二人で仲良く休むしかなかった。

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母はときどき寝室にやってきては冷却シートを変えたり、すりおろしたリンゴやゼリーを食べさせたり、スポーツ飲料を飲むように伝えたりと、看病に忙しかった。私は風邪に加え、外で遊べなくてふてくされ、食欲がなかった。せっかくのリンゴも、少しお高いゼリーも、数口食べてごちそうさましていた。

午後になると私たち姉妹の体調不良が落ち着き始めた。気が付くと長く眠っていた。

ガチャリ。
ドアの音で目が覚め、起き上がる。体の熱は引いて、起き上がるのも楽になっていた。

「体調は?」

母はもこもこのコートを着て、分厚い手袋をはめていた。

「ましになった」

その会話が聞こえたのか、妹も起き上がる。

「よかった。じゃあ、上着を着て、少しだけ外に行こうか」

分厚いパジャマにコートを重ね、もこもこの私たちは裏口から外へ出た。

道や屋根が雪に覆われキラキラと輝いている。恐る恐る触ってみると、ひんやりとした感触が手に伝わり、指先で触れた雪がほのかに湿る。

「こっちおいで」

私は体のだるさも忘れ、うきうきで母についていく。

「じゃじゃーん」

正面玄関の扉の横には雪だるまがあった。

妹の身長ぐらいはあるだろう。黒い艶やかな石の目に、木の枝の手。
絵本で見た雪だるまみたい!
私たちはすごい! かわいい! と大声を上げながら雪だるまをじっと見る。

「お母さんが作ったんだよ」

母は少し得意げに微笑みながら、手袋を外した。手袋は溶けた雪でぐっしょりと濡れていた。母の鼻は寒さで赤くなっている。

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私たちは冬になると母がこたつにこもりがちなのをよく見ていた。寒い寒いと言いながら、当時冷たい水しか出ない水道で、食器を洗っていたのを知っていた。

それでも母は看病の合間を縫って、ふてくされた私たちのために作ってくれたのだろう。

それ以降も数年に一度雪が積もった。

中学生のときは、朝イチの中庭で雪合戦をした。高校生のときは滑る雪道を恐る恐る歩きながらバス停へと向かった。

あのときほど、雪が心から嬉しいと思えたことはない。きっとこれからもないだろう。

雪の美しさとともに、母の深い愛を感じられたから。

数年に一度、雪が積もるたびに思い出す。