雪山で気づいた父の愛情。冬が来るたびに思い出すあの温かい手

冬の山は、冷たい空気と真っ白な雪に包まれた静寂の世界だ。父と二人でその山に登った日のことは、私の心に鮮やかに焼き付いている。あの日の出来事を思い返すたびに、私は「親の愛」というものの深さを改めて感じる。
その日は一面の雪景色だった。山頂から見る景色を楽しみにしていた私は、父の提案で雪山登山に挑戦することになった。雪に覆われた山道を歩くのは初めてだったが、父がしっかりとリードしてくれるので不安はなかった。少し険しいルートを選んだのも、雪山ならではの景色を楽しめるという父の言葉に惹かれたからだ。新しい体験への期待で胸を膨らませながら、雪の中を一歩一歩進んだ。
雪はふかふかで、足を踏み出すたびにキュッと音を立てる。その音を楽しみながら進んでいたのも束の間、私は思いもよらないトラブルに巻き込まれた。ある地点で道が凍っており、ツルツルと滑りやすくなっていたのだ。慎重に進むつもりだったが、足元の雪が崩れ、私は急斜面を滑り落ち始めた。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。冷たい風が顔に当たり、体がどんどん滑っていく感覚が怖かった。止まらなければ、崖のような場所に落ちてしまうかもしれない。恐怖で声すら出せなかった。だが次の瞬間、私はふわりと止まった。気が付くと、父が私の腕をギュッとつかんでいたのだ。
「大丈夫か!」
父の声が響いた。彼は必死に私を引き寄せ、そのまま自分の体を盾のようにして私を守った。そのとき雪が分厚く積もっていたおかげで、私たちの衝撃はかなり和らいでいた。ふかふかの雪がクッションの役割を果たしてくれたのだ。ある意味、雪に助けられたとも言えるだろう。けれど、それ以上に私を守ろうとした父の行動が、私の心を深く揺さぶった。
「危なかったな」と笑う父の顔はいつも通りだったが、私はその表情を見つめるだけで何も言えなかった。滑る直前まで楽しかった登山が、一瞬で私にとって忘れられない体験へと変わったのだ。あの時父が手を伸ばしてくれなかったらどうなっていたのだろう。そう思うと涙が出そうになったが、私はぐっと堪えた。
下山の途中、父は「雪があったおかげで助かったな」と明るく言いながら、雪のついたズボンを払っていた。まるで何事もなかったかのようなその態度に、私はただ黙って頷いた。しかし、あの瞬間の父の腕の力強さとその後の温もりは、私の心に深く刻まれている。
家に帰ってからも、あの日の出来事を何度も思い返してしまった。父にとっては「親なら当たり前」の行動だったのかもしれないが、私にとっては命を救われた瞬間だった。そして、雪山という厳しい自然の中で見せてくれた父の愛情は、私にとって何よりも大きな教訓となった。
冬が来るたびに、あの冷たい雪と父の温かい手を思い出す。そしていつか、私も父のように大切な人を守れる強い人間になりたいと思うのだ。親の愛情の深さを教えてくれたあの日の記憶は、これからも私の心の中で光り続けるだろう。
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