泣きながら食べたごはんって、どうして鮮明に記憶に残るのだろうか。

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2ヶ月前、大きな試験を終えたご褒美に、大好きなドラマのロケ地になった喫茶店に行った。映画でもドラマでも小説でも、食を丁寧に描いてくれる作品が好きだ。特に、あんまりポジティブじゃない食事。登場人物たちは、どんな過酷な環境でも、どんなに寂しくてもしんどくても絶望しても、食べる。食べて、また日々を生きていく。そういう、大好きな作品の舞台のひとつになった喫茶店。

レトロな茶色っぽい外観、カウベルのついたドアを開けると、そこはもうドラマで観た世界で。案内されてからも夢見心地でしばらくぼーっとしてしまった。喫茶店に行くと大体ナポリタンを食べるので(前述したドラマの脚本家が書いた別の作品にはナポリタンが印象的に登場する)、ナポリタンとアイスティー、そしてプリンアラモードを注文した。

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アイスティーが運ばれてきてからしばらくして登場したナポリタンは焼けたケチャップの香りがして、いい感じにツヤっぽすぎず、とてもおいしそうだった。服に飛ばさないようにと恐々フォークに巻きつけて、一口。なぜか涙が止まらなかった。結いていた髪の毛を解いて顔が見えにくいようにして、泣きながら食べた。別にものすごくしんどい時期だったわけでもないし、何か悩んでいたわけでもない。むしろ試験が終わって開放感に包まれていたはずだったのに。自分でも気が付かないうちに心のどこかにぽっかり空いていた穴が満たされていく感じがしていた。

泣いてしまったおかげでナポリタンはちょっと涙の味がしたけれど、本当においしかった。途中で粉チーズとかタバスコとかを使っていい感じに味に変化を加えながら、ふだんのわたしにしては多い量をぺろっと平らげた。

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ナポリタンを食べ終わってほどよい頃合いで、プリンアラモードがついに目の前に現れた。横長のガラスの器にカラメルプリンとバニラアイスクリームが隣り合わせでのっていて、アイスには白っぽいウエハースが刺さっている。それらに彩りを加えるみたいにして缶詰のももとみかんと桜桃、生のバナナ、チョコスプレーのかかったホイップクリームが添えられている。ドラマで見たままのプリンアラモードだった。食べながら、ふと「ああ頑張ろう」と思った。こうやって素敵な場所でおいしいものを食べられるだけで、わたしはまだまだ踏ん張って生きていけそうだと。

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今年に入ってから、洗濯機の中でぐるぐる回され揉まれてるような新生活の日々を送っている。食事はウィダーとかパックのジュースとかに置き換わる頻度が増えた。数十秒で必要なエネルギーを補給して、また揉まれに行く日々。そんな中で休憩時間ができたときに休憩室でユニフォームのまま食べたコンビニのあんまんは、もうどうしようもなくおいしかった。

めまぐるしさでからっぽになった心にあんまんのあたたかい甘さが沁みた。これは希望的観測に過ぎないけど、もしかしたら、わたしも好きな作品の登場人物たちのようにどんな状況でも食べて、生きていけるのかもしれない。