白鳥のように踊れるのは先でも、大人の私が見つけた「やりたい」こと

気づいたらリール動画を一時間見っぱなしになっていて、お風呂に入る時間をまた先延ばしにしてしまった。
今の世の中には、脳みそが溶けてしまうのではないかと思うほど情報で溢れている。リール動画、芸能人の投稿、ゴシップニュース。スクリーンタイムはあっという間に6時間を超える。このままいけば、私はどれだけの時間をSNSという媒体に使ってしまうのだろうか。そう思ったら居ても立っても居られない気持ちになり、先日インスタを消した。
「インスタって楽しいですか?」これは、高校の先輩に私が問いかけた言葉である。みんなで写真撮って、目の前にいる人よりもスマホを大切にする人間バカ製造機。これが、私のインスタへのイメージだった。
しかし、インスタなんて絶対やらない。と、決めた信念はアメリカ留学で粉々に壊された。向こうはSNS社会すぎて、やっていないと不思議な顔をされる。そして、そのコミュニティーの仲間に入れない妙な孤独感に私は苛まれた。
留学で一番苦痛に感じるのは、孤独であると個人的に思う。頼れる家族も友達もいない。言葉だって、母国語並みに話せるわけでもない。そんな中で、SNSがないとやっていけない状態に生まれて初めてなった。今思っても、あの時は必死だったと同時に辛かったのだが、仲間に入れないというのは若さ故の思い違いで、別にSNSやってなくても心の持ちようとコミュニケーションの上手さがあれば乗り切れただけである。
ダウンロードしてから間も無く、インスタは麻薬のような味と匂いで、あっという間に私をバカに仕立て上げた。
留学時は一生の友達になるのかも。と、期待していた友人関係もあっけなくインスタのフォローを外されて終わった。インスタにはそんな苦い思い出が詰まっている。
そしてインスタをやめたのはいいが、今までインスタに費やしていた時間がいきなり手元に入ったので正直時間を持て余しすぎて困惑している。「この時間どうしよう」なんて贅沢な悩みができてしまったのだ。
そこで私はあることを始めた。それは、「大人バレエ」である。
大人バレエとはその名の如く、大人がバレエを踊るのだが、私は最初バレエ教室に足を踏み入れるのが怖かった。正直、意地悪な人にいじめられると思っていたからだ。
だけど、これが全然違う。みんな大人になってから、自分がやりたいと思ってバレエをやっているので、そんなつまらないこととは無縁な教室だった。
教室のドアを開けると、「おはようございます!」と大きな声で挨拶をする。めちゃめちゃスポーツっぽい。だけどお腹から声を出すのは気持ちがいい。
レッスン開始の時間になると最初は筋トレだ。先生からの愛の鞭を全身で受け止め、どんどん体を追い込んでいく。これがめちゃめちゃ辛い。辛いと言えないくらいに辛い。自分の体の重さに耐えられず、プルプルプルプルと震える腹筋と腕。呼吸法から足の位置から、何から何までバレエ一色のレッスンが一時間半続く。え、私ってこんなに筋肉なかったっけ?
筋トレが終わったら柔軟、そしてバーレッスン。全身鏡に映るのは薄桃色のタイツを履いた私。最初はバレエの用語なんてわからないから、一緒にレッスンを受けているお姉様方を見ながら、技を覚えていく。私の足は太くて、体も硬くて、筋肉もないから跳やしない。こんな有様で何がバレエだよ。と、最初は恥ずかしく思うのだが、これがやってみると意外に楽しくなってきてしまうのだ。
汗をかきながら、一心不乱に鏡の前の自分と戦う。敵は自分、自分との戦いのレッスン時間は、今までスマホを見ながらぐうたらしていた自分と決別できるような気持ちになった。
「いいよ、いいよ!足綺麗!」そうやって先生に褒められると、殻を被っていた自分の自己肯定感も上がっていく。こんな楽しい時間は久しぶりだった。
鏡に映る私は、確かに惨めだ。こんな有様で何がバレエだよ。確かにそうなのだけど、上手くなりたいと思っている私がいる。
もっともっと上手くなりたい、私だってポワント履きたい。そんなことを思っていると、頭はいつの間にかバレエ一色になった。
頭の中にはバレエを踊っている私。そりゃ、白鳥のように悠々と踊れるのは先かもしれない。だけど、私は今これをやりたい。限りある時間の中で、やりたいことをやれる幸せを噛み締めながら、私は今日もバレエ教室に行く。
そうだ、今年はバレエをやろう。そして上手くなろう。
どんな姿でも、私は私だ。
「おはようございます!」と、私は今日もバレエのドアを開ける。
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