あの子にあげたくなった特別。受け取る手に乗ったのは初恋の雪だった

今大阪に住んでいる私には雪とは程遠い冬を過ごしている。ただ刺すような寒さが攻撃してくる冬。どうせなら降ってくれと思ってしまう。以前は京都に住んでいた。
京都はこっちよりも多少降るのだが空のごきげん次第だ。全く降らない年もある。高校の時なんて降ったら十分休憩の休み時間でもグラウンドに出て数人で二センチほどしか積もっていない泥まじりの雪を必死にかき集めて雪合戦をしたのが懐かしい。
先生までも何故かそうゆう日は少し気持ちが上がっているようだった。それぐらい私たちにとっては素敵な事なのだ。
ただ思い出はあまり無いのかもしれない。実は小学一年生までは石川県に住んでいた。親の転勤で二年生から京都に引っ越して来たのである。石川県の冬は本当に辺り一面真っ白だったのを今でも覚えている。毎日友達とかまくらやすべり台を作ってごっつい手袋をつけて日が暮れるまで遊んでいた。あの時に比べたら関西の雪なんてあって無いようなものだ。
毎日遊び過ぎて特別な記憶とは言いづらい。当時は積もるのが当たり前だと思っていたから。だから当時の事をキラキラした思い出として語れない。
何かあったけっと思い返すと一つだけ可愛い記憶が出てきた。あれは小学四年生のことである。その時私には仲の良い男の子がいた。その子も私と同じく何処かから来た転校生だった。お互い違う県から来たという親近感もあり直ぐに二人は仲良くなれた。
あの時はまだあまり恋を知らなかったので友達だからこんなに一緒に居て楽しいのかと思っていた。学校が終わって帰宅してからいつも数人の友達と駄菓子屋に集まっていた。私はいつもその子来てるかなと期待していた。だって仲が良かったから。その子は誰にでも話しかける性格だったので誰とでも仲良く私もそのうちの一人だったのだと思う。
その子と出会って季節は変わり冬になった。バレンタインの時期だ。去年はチョコを溶かして型に流してハートの飾りをつけて仲良い友達に配っていた。特別なんてなかった。皆一緒。でもその年は特別を作りたくなったのだ。誰かが去年言っていたのを聞いたことがある。
「私、あの子にハートのチョコあげるんだ」
その女の子は頬が少し赤くなっていて可愛かった。私にその特別と言う違いが分からなかった。だって皆仲良いもん。でも、今年はあの子に特別をあげたくなった。いつも一緒にいて他の子より仲が良いと思ったから。
その子にはトリュフをあげた。チョコと生クリームを混ぜて丸めるだけの作業だけど私には大変な作業だった。手はベトベトになるし体温ですぐに溶けてしまう。なんとか不恰好なトリュフが出来上がった。いつも袋に入れていたけど箱に入れて渡したくなった。他の子と違うよってアピールしたかったんだと思う。
「はい、これ。美味しいか分からんけど」
学校で渡すのは少し恥ずかしくってその子の家に行って渡した。少し手が震えた。
「え、ありがとう。嬉しい」
その子は驚いて目がまん丸になった後で、いつもとは違うふにゃっとした笑顔で受け取ってくれた。
「あ、みて。雪だ」
受け取るその子の手に小さくて白いものが乗っていた。それはすぐに溶けて水滴に変わる。上を見上げると灰色の空から沢山雪が舞い降りてきた。スノーバレンタイン。上を見上げるその子の顔を見ると、胸がドキンとなる音がした。多分これが私の初恋だったのかもしれない。
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