運命の出会いと感動をくれた鴨南蛮そばと柚子胡椒。今では私の定番に

ふらっと立ち寄ったそば屋で食べた鴨南蛮そば。もともと鴨肉が好きで、鴨南蛮そばは好んで食べているメニューである。このときもいつものように鴨肉に惹かれて注文した。出来上がるまでをワクワクして待っていると、店員の「お待たせしました」の声とともにテーブルに鴨南蛮そばが置かれた。湯気とともに香る、少し濃いつゆの香り。食欲をそそられる香りと、絶対に美味しいと確信を得られる鴨肉の存在にテンションが上がった。いつもと違ったのは、同じトレイの横に柚子胡椒が乗せられた小皿があったことだ。
これまでに食べたことのある鴨南蛮そばには、柚子胡椒がついていなかった。温かいそばはそれだけでトレイに乗っていることが多く、もちろん食べごたえも満足できた。味変を考えなくても十分美味しいと思えていたため、どうして柚子胡椒がついてきたのか不思議だった。
しかし、試してみたくなるのが私の性だ。半分くらい普段通りに味わったあと、レンゲにすくったつゆにほんの少しだけ柚子胡椒を溶かしてみた。すると、想像していたよりも遥かに美味しかった。濃い見た目のつゆに負けない柚子胡椒の香り。味も喧嘩することなく、いいところをいいバランスでまとめられていた。
柚子胡椒はもともと好きで、冷蔵庫に常備しておく調味料の1つだ。我が家では切らすことはなく、無くなりそうであればすぐに買いに行くほど重要な調味料である。ここ数年は、少し遠くの店で売られている柚子胡椒を買いに行くほどこだわりを持っている。それほど大好きな柚子胡椒が、大好きな鴨南蛮そばといっしょになったときの美味しさは、感動では済まされないくらい大きく、心を動かされ、胃袋を掴まれた。
少し混ぜただけでここまで美味しいのであれば、さらに柚子胡椒を感じられるギリギリを攻めてみたいと思った。薬味として添えられている柚子胡椒の量はそれほど多くはない。器に残っているそばの量を見て、もう少し欲しいかも知れないと思うくらいの量だった。だが、今回初めて出会った組み合わせで、まだ自分的ちょうどいい量を知らない段階だ。今はとりあえずお皿に残っている量でお気に入りの量を探してみることにした。
レンゲで試した味見は大成功だったため、次は器の中に柚子胡椒を溶かした。箸で何分の一かを掴んで溶かし、一口そばをすすって、また足して、を繰り返す。3回ほど繰り返したら、小皿に残っている柚子胡椒はほんの少しになった。味的には、もう少し足しても美味しいであろう予想はついていたので、ためらわず残りの柚子胡椒もそばつゆに溶かした。すべて溶かすと、少しだけピリッとした辛さを感じられた。鋭く来る辛さではなく、舌にトンと置かれるような刺激が一瞬あるくらいだ。それがまた、柚子胡椒らしさであり、気に入っている。おかげで、そばをすすり終わってもつゆを飲みたくなってしまう衝動にかられる中毒性すら感じられた。あの時の食事は、新発見であり、大満足な食事だった。
母親の味でも、小さいときの思い出とともに親しんだ味でもない、ただの食事に過ぎない鴨南蛮そばだが、このときの出会いは一生忘れないだろう。この発見をして以降、年越しそばは鴨南蛮そばになり、必ず柚子胡椒を準備する。自分で準備するときはそれなりに多めの量をお皿に取って、最初からしっかりと柚子胡椒を味わっている。
他のお店で鴨南蛮そばを注文しても、柚子胡椒をつけてくれる店は少なく、私の知る限りだと、大発見をしたあの店だけである。他の店でも定番化すればいいのに、と本気で思う。この味や組み合わせを知らない人にはぜひ食べてみてほしい。自信を持っておすすめできるメニューだ。
偶然であった組み合わせが、一目惚れのようなビビッと来る何かを連れてきてくれ、私の定番となった。鴨南蛮そばと柚子胡椒。おいしくないはずがない。あのときの出会いにも、試そうと思った自分にも、ナイスプレーだと言える。今のあの感動を超えるごはんには出会えていないほど強く思い出に残るごはんである。
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