時々人には言えないほど、とんでもなくケチになる日がある。出費が続いたからなのか、ホルモンバランスのせいなのか、理由は定かではないが、とにかくお金を使うことが嫌になる日が私にはある。

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どこかに行くにしても、交通費やガソリン代が気になるし、外で過ごして喉が渇くこと、お腹が空くことも億劫に感じる。それならば家で過ごそうと気持ちを切り替えればいいものの、特にやりたいことや見たい映画も見つからずダラダラしてしまい自己嫌悪を感じる。だから、何かをせねば!と焦ってしまう。

厄介だが、自分ではなんともコントロールできないそんな日が定期的にやってくる。

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その日も早めに仕事が終わった金曜日の夕方にこの厄介な感情が訪れた。時刻はまだ17時で外は明るく、明日の予定もなし。時間はたくさんあり、社会人の私は学生とは違い、幾つもの過ごし方を選べるはずなのに、動けずにいた。

ただこの日がいつもと違ったのは、何となく取り出した財布の中に千円札が5枚あったことだ。私は極力財布の中身は軽くしておきたい人間だ。だから、一円玉が5枚あること、五円玉が2枚あることを嫌う。それなのに今日はなぜか千円札が5枚入っている。本来、お釣りが五千円札になるように調整しているはずなのだけれども。

そして何となくこんなことを思いついた。「この千円で今日という日を充実させてみよう」と。千円札一枚だけを財布とは別の巾着袋に移し、出かける準備をした。

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千円を使うと決めると、自然といろんな想像ができた。今から夕飯を食べに行ってもいいし、スイーツを買ってお家で海外ドラマを見るというのもわくわくする。いい入浴剤を買っておしゃれなバスタイムもいいな。

色々考えたところで、まだお腹も空いていなかったので、ひとまず近所の雑貨屋に向かった。そこでわかったことは、千円あると結構色々なものを買えるということだ。店内を一周したところでクラフトビールが目についた。そうだ!独りでお酒を飲んじゃおう!と思いつき、それならと、もう少し足を伸ばしたところにある海外の食品を多く扱うお店に行った。そこで見つけたホット専用の赤ワインをゲットし、まだお金があったので近くのパン屋でアップルパイを買った。

すごく気持ちが高揚していた。言い表すなら、初めてのおつかいの帰り道。大袈裟かもしれないが、こんな過ごし方に出会い、実行できたことを誇りに思った。

家に帰り、海外アーティストのライブ映像を見ながらホットワインとアップルパイを楽しんだ。

いつも時間を無駄にしてしまって落ち込むのに、今日は自分の力で充実させて、心を満たすことができたことが何よりの喜びだ。

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この日をきっかけに、とんでもなくケチになる、厄介な日がなくなった。なんてことはなく、相変わらず時々訪れる。しかし、千円札が形を変えて私を満たしてくれることを知ったので、そんな時はまず巾着袋に千円札を入れて外に出る。

そうすれば、自分の頭でぐるぐる考える思考より何倍も素敵なことが起きるんだ。