思い返すといろんな思い出のごはんが蘇ってくる。

母がクリスマスに作ってくれたラザニアや誕生日に作ってくれた熱々の唐揚げ。味がすることがうれしくて、泣きながら食べたスパゲッティ。苦しかったことを打ち明けた時に、差し出してくれたアップルパイ。涙ながらに食べたあの味も、にこにこ笑顔で食べたあの味も、全部全部わたしの心に刻まれている。

これ以上のしあわせなごはんなんてない。そう思っていたけれど、わたしはある時、忘れもしない思い出のごはんに出会うことになった。

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その思い出のごはんには、ヨガを学ぶために行ったインドで出会った。インドでは1ヶ月間、アーユルヴェーダという東洋医学に基づいた生活を送った。毎日毎日カレー三昧だった。しかし、カレー三昧と言っても、季節の野菜やスパイスがふんだんに使われていて、全ての野菜やスパイスに意味が込められていた。全ての料理が手作りで作られていて、とても良好で新鮮なオイルを使ってくれていたから、インドのカレーでお腹を下すことは一度もなかった。

また、新鮮なフルーツを使ったフルーツジュースを毎日おやつに出してくれた。この食事からわたしは毎日の食事、一つ一つを五感で味わって食べることの大切さを教えてもらった。最初は薄味で物足りなさを感じていた食事だったが、気付けば少しの量でお腹いっぱいになっていたし、野菜の味を全身で堪能できるようになっていた。

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そんな生活を3週間続け、いよいよラスト1週間となったある日、最後の卒業試験を知らされた。毎朝6時からヨガを学び、楽しくて幸せだけど、わたしの疲れもピークに達していた。そんな時、先生たちがお昼ごはんに手巻き寿司とお味噌汁を用意してくれた。もちろん先生の中には日本人はいない。食材もインドにあるもので、少しでも日本人のみんなが喜んでくれるように、先生たちが一生懸命考えて準備して日本食を用意してくれたのだ。

ひとくち、味噌汁を飲んだ瞬間、涙がこぼれた。手巻き寿司を噛み締めた時、涙が溢れて止まらなかった。おいしい。すごくおいしい。手巻き寿司ってこんなに美味しかったの?手巻き寿司って言っても日本人が想像する手巻き寿司とは全然ちがう。でも、わたしたちのために一生懸命準備してくれた気持ちがうれしかったのだ。

ぼろぼろ泣いて、鼻を啜りながら食べた。周りからも鼻を啜る音が聞こえてきた。先生はいつもわたしたちに教えてくれた。幸せは集めるものじゃありません。実感するものです。美味しいもの、たくさん食べたいし、食べたことのない料理もいっぱい食べてみたい。だけど、目の前にある食事をもう一度ゆっくりゆっくり目を瞑って味わって食べてみよう。誰かのために心をこめて料理をしよう。そばにいてくれる人と一緒に食事を楽しもう。わたしはこの1ヶ月で、こんなに素敵なことに気づくことができたのだ。

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きっとわたしの思い出のごはんは、人のやさしさやあたたかな気持ちがまっすぐに伝わってきたごはんなのかもしれない。だから、食べながら笑顔になったし、涙がこぼれたのかもしれない。今まではそれを受け取るばかりだった。だからこれからは自分が与える番になりたい。いつも美味しいごはんをありがとう。これからはわたしに作らせてね。