本当はあなたのことが大好きで、あなたに憧れていたんだ。

小学生のころ、いつも一緒に遊んでいた友人が「紹介したい子がいるの!」と放課後の遊び場に連れてきてくれたのがA子だった。A子はお人形のような愛くるしい見た目と、明るくユーモアに溢れた性格が魅力的な女の子だった。
彼女とは住んでいる場所が近かったこと、そして同じ一人っ子なこと、誕生日が近いこと、二人とも英語が好きなこと。そんな共通点の多さから、私たちが仲良くなるのに時間はかからなかった。

その日を境に、お互いのクラスを行き来するようになり、二人だけの交換日記をしたり、予定がない放課後はほとんど毎日遊ぶくらいの関係になった。似ている部分が多く、一緒にいることが本当に心地が良くて、これを親友と呼ぶのだろうと感じるほどだった。

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そんなA子は中学受験を控えており、中学校は別々の場所へ通った。
それでも日々メールでのやりとりは変わらずしていたし、交換日記を家に届けに行ったり、休みのときは一緒に出かけたりと仲が良かった。お互いに別々の場所にいるからこそ互いを思い合い、将来に向けて刺激し合える関係性でもあったのだと思う。

そんなある日、彼女が私立の学校から転校してくるという話を耳にした。

驚きはしたけれど、何よりもまたA子と同じ場所で同じ日々を過ごせることが嬉しかった。
だけれど、そのことが私たちの関係をガラリと変えてしまうことになるとはこのときは思いもしなかった。

転校してきて間もない頃は、小学校時代の楽しさが戻ってきたようでとても充実した日々だった。しかし中学生になると日々の勉強や学校生活の中で、将来について考える時間が増えたことで私の中に今までなかった感情が湧いてきたのだ。

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私たちはとても似ていた。
それは単に一人っ子であるとか、誕生日が近いとかそれだけではなくて、好きなものが同じであったからこそ、目指している夢や描いている未来までが似ていたのだ。

同じ方向を向いているということは一見すると良いことのように感じるかもしれないが、当時の私にとってはそうではなかった。あまりにも似ている彼女と同じ方向に進もうとしているということは、どうしても彼女と比べられることがあるし、私自身も無意識に自分とA子を比べていた。

彼女が魅力的な人間であるからこそ、比べられることがとても窮屈であったし、それが私にとってとてもコンプレックスだった。
彼女が周りに評価されればされるほど、なぜか自分が否定されているように感じた。それは勉強面だけではなく、部活動や学校生活に関するすべての要素においてライバルのようであった。

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大好きだからこそ、それを素直に受け入れて励まし合えるような関係性を築けたらよかったのだろうが、そんな器が私にはなかった。

周りが彼女を評価するとき、彼女はいつも私のことを褒めてくれた。それはすごく嬉しいことのはずなのに、私はそれすらも受け入れられずだんだんとA子に対してネガティブな感情を抱くようになった。

あんなにいつも一緒にいて、あんなに大好きだったのに、一緒にいることが、彼女と同じ方向を向いていることがあまりにも辛かった。
そう思ってしまったら、もう今までのような関係性を築くことは難しかった。胸に込み上げてきた真っ黒な気持ちはどんどんと膨らんでいった。
そして私は、その気持ちをメールで彼女に伝えたのだ。

そのメールへの彼女の返答は、こんなにも似ているのかと思うほどに同じことを考えていたということが記されていた。そうやってお互いの思いをぶつけ合ったことで、プラスな方向へと変化したらどれほど良かったのだろう。
だけれども、当時の私たちはその思いを受け入れられるほど大人ではなかった。
そうして、私たちの親友という関係はこうも簡単に終わりをつげた。

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顔を合わせれば挨拶をするし、他の友人を含めて遊ぶこともあったけれど、もうかつてのように二人の関係が深まることはなかった。私たちの間にできた溝は卒業するそのときまで埋まることはなかったのだ。
一度だけ、A子との関係を変化させられるチャンスがあった。卒業にむけて一人一枚色紙をもらい、そこに仲が良い人にメッセージを書いてもらうというものがあった。そこへのメッセージをA子にも書いてもらおうと思ったのだ。彼女のクラスに足を運び、仲が良かった数名にメッセージを書いてもらった後、A子に声をかけようと思った。

でも結局できなかった。どうしても彼女に声をかけることはできなかったのだ。
今でもその色紙をみると、いろいろな人からの嬉しいメッセージに顔がほころぶ。と同時に、あの時の後悔が蘇ってくる。
メッセージを書いてもらいたかった、もう一度A子と二人で話をしたかった。
でも私はできなかった。

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境遇も性格も考え方も似ていて、そんな私たちが惹かれ合うことも目指す未来が同じであることも自然なことだった。
だけどあの時の私は、それを素直に受け入れられるような人間ではなかった。
あの頃の私がもっと大人であって、もっと素直であって、もっとちゃんと受け止められる器があったのなら、A子との関係も違っていたのだろうか。

大好きだったのだ。
憧れだったのだ。
そんな大切な思いは、私自身の弱さによって消えてしまった。
でも本当はその気持ちは消えずに、今も心の奥深くにしまい込んである。
いつかまた出会えたら、今ならその思いを伝えられるのだろうか。