大学の友達は、みんな口を揃えて言った。英語なんか喋れなくても、読めなくても、AIがあるんだから大丈夫でしょ、と。

でも、全然大丈夫ではない事態に二度、私は遭遇した。

◎          ◎

ちなみに、私は英語は問題なく読み書きリスニングができる。アルバイト先の一つでは、それをいかして、海外の観光客向けのサービス業をしている。そこではほぼ100%が海外からのお客様で、当然、接客は全て英語で行われる。でも、時々英語がわからないお客様が来ることがある。これはそのときの話だ。

一組目は、フランスから来た、高齢の女性とその孫娘の二人だった。普段なら、英語が得意でないお客様でも、ゆっくりで簡単な英語と、ジェスチャーを使えば、接客には問題ないはずだった。でも、本人達が予約したはずの内容と、自分たちの手元にある予約データが違うというアクシデントが起きてしまったのだった。詳細を確認したかったが、二人ともフランス語しか分からず、予約確認メールを見せてもらっても、エージェントを介してうちの予約をとっていたため、メールは全てフランス語。しかも、エージェントに任せていたため、本人達は予約についてあまり詳しくなかった。メールの内容はところどころ英語の名残はあったため、なんとなくの雰囲気ではわかったが、問題を解決する分にはなんともならない。翻訳機を使ってもちんぷんかんぷんな訳になるだけ。その時は偶然、教えてもらったエージェントの番号にすぐつながったためことなきを得たが、もしつながらなかったらと思うと恐ろしかった。

◎          ◎

二組目は中国人のカップルだった。その時は特にアクシデントもなかったのだが、帰り際に、日本の歴史について翻訳機を使って質問された。中国語から日本語に訳された内容は絶妙に意味のわからない語群の羅列だった。それでも、意味を予測して私の返事を翻訳機で中国語に訳してもらったのだが、おそらくそれも精度があまり良くなかったようで、下手くそな伝言ゲームが続く状態になってしまった。結局、お互い何を言ったのか分からないまま、時間がきて二人は帰ってしまった。

今までは、英語さえできれば世界中の人とコミュニケーションが取れると思っていた。でも、英語で世界と繋がるほどに、英語が万能ではないことに気付かされるばかりだった。英語は世界の公用語であっても、共通言語ではないのだと身をもって知った。

◎          ◎

英語話者が少ない日本にいて、しかも自分の今の大学ではなおのこと、英語が話せるだけで、私はみんなにすごいと言われる。時々それを聞いて鼻が高くなってしまいそうな時もある。でも、英語ができるだけでは少なくとも十分とは言えないのだ。

だからそれを忘れないためにも私はフランス語の勉強を始めた。フランス語を選んだのは将来の仕事のためでもなんでもない。ただ、私が聞いていて一番格好良くてオシャレだと思ったし、お菓子作りが好きだったからその本場の言語に興味を持ったというだけだ。久しぶりに母国語以外の言語の難しさをひしひしと感じて、英語を学び始めた時の気持ちも思い出した。英語を話せるようになるまでも、忘れてしまっていただけで私はたくさん努力した。だから今の英語力だって、評価しないわけではない。でも、AIでは辿り着けないもっと上の景色を見たいと思うのだ。