黒髪が似合う、大好きだった彼女。私の人生を変えた、正しい人

ずっと好きだった、今でも忘れられない、そんな人が私の人生の中で一人います。
夏生まれで、顎下で切りそろえられた艶のある黒髪が涼し気な一つ年上の女の子でした。にんじんが嫌いで、猫とお花が好きな、夏の花がよく似合う、あたたかい子でした。
彼女とは去年の初夏、梅雨入り前の天気が不安定な、雨なのか晴れなのかはっきりとしないような、そんな季節に出会いました。
彼女と話せた日の私の心の中は快晴だったし、話せなかった日は曇りました。会えない日は雷雨で、私の心の中もまた不安定でした。
六月十八日、彼女と交際を始めてから、彼女は私の人生を大きく変えてくれました。彼女は進学で県外から東北のこちらへ来ていて、バイトをしながら一人暮らしをしていました。だから時間があればいつでも彼女の家に足を運んだし、二人が会うのはいつも彼女の家でした。
一緒に料理をしたり、ゲームをしたり、映画を見たり、インドアなふたりだったので、世間一般的なお家デート。彼女が勉強している間は、小説を読んで待っていましたが、待ちきれなくて何度も話しかけてしまいました。それでも彼女は、笑顔で私の話を聞いてくれました。彼女の笑顔はあたたかくて、マリーゴールドのようでした。私のつまらない話に笑ってくれる彼女が大好きでした。
夜中にコンビニに行く時も、動物園やディズニーランドに行く時も、外を歩く時、彼女はいつも、私の左側を歩きました。
「定位置だね」と言って笑う彼女の右顔が痛いほど鮮明に脳裏に焼き付いています。
喧嘩して私がすねても、しつこく話しかけてきて、仲直りするまで寝かせてくれないところが二番目に好きでした。一番目は内緒です。
自分の顔がコンプレックスなところも、前の恋人との良くない思い出を嫌っているところも、絵が下手なところも全てひっくるめて、丸めて丸めて、抱きしめてあげたいほど愛していました。一人暮らしでお金が無いはずなのに、自分の化粧品を買うのを我慢してまで私にご飯を食べさせたいと料理を振舞ってくれる、非の打ち所のない女の子でした。
ただ、強いて言うなら、自分を犠牲にしてまで私に尽くす彼女の優しさだけは、受け入れられませんでした。
彼女は手紙が好きな人でした。記念日や誕生日には、いつも私に手書きの手紙をくれました。私はあまり手紙を書かなかったので、彼女がこれを見てくれていたのなら、これが最初で最後の彼女へのラブレターになると思います。
大事なことを口にするのが苦手な彼女が頑張って文字にしてくれた手紙は、愛らしくてたまりませんでした。そんな不器用な彼女の便箋は、私にとって掌中の珠のような存在でした。
ただ、彼女が私にくれた手紙の中でひとつ、まだ開けられていないものがあります。
「もしもう会う気無かったら読んでね」と封筒に書かれた手紙です。私はまだこれを、開く勇気はありません。
見ずに捨てようとも思いました。でも、彼女が私のことを思って書いてくれたこの手紙を、ただの紙切れにしてしまうことは出来ませんでした。心のどこかでまだ、信じているのかもしれません。これを開かなければ、まだ彼女に会えるかもしれないと。
彼女は、私の乾ききった人生に水をやってくれるような、正しい人でした。逸れた道から私を引っ張り、どこまででも連れて行ってくれる人でした。
どこかで私のことを思っていてくれたら、嬉しいです。もしもう一度会えても、あの時のさよならを台無しにしたくないから、お互い知らないふりをしようね。
おはよう。おやすみ。どうか元気で、幸せにね。
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