静かに、でも確かに私の手を引っ張ってくれる。その存在が私を動かす

私は今、学校に行っていない。働いてもいない。ただ家にいる。それが私の日常だ。
そんな私を気にかけてくれる友達がいる──それが、私にとって最近一番うれしかったことだ。
今年の1月から学校に行く頻度が減り、高校を卒業してからは完全に家にこもる生活になった。最初のうちは、「少し休もう」「充電期間だ」と自分に言い訳していたけれど、気づけば何もない日々が当たり前になっていた。
朝、起きてテレビをつけたままご飯を食べ、ゲームをしたりショート動画を延々と見たりして過ごす。時間だけが静かに流れ、夕方が来る。1日の歩数は200歩にも届かない日が多い。会話をする相手も、家族か、たまに来る宅配の人くらいだ。
別に、それがすごくつらいというわけではない。むしろ、誰にも会わず、何も責任を持たずに過ごせるこの時間が楽だと感じる瞬間もある。ただ、ふと気づく。何かが欠けているような気がしてならない。
そんなとき、ふいに友達からのメッセージがきた。
「最近、外出てる?このお店、おいしそうなんだけど行かない?」
その子は、私とは正反対の性格をしている。誰とでも仲良くなれて、行動力があって、大学生活を楽しんでいる。まさに「リア充」って感じだ。
だからこそ、私はその子のことが少し苦手だった。私と違って、毎日がキラキラしていて、私ができないことを軽々とこなしていく。そんな子に自分のことを知られるのが怖かった。
でもその子は、そんな私を否定せず、責めもせず、変わらず声をかけてくれる。月に2回ほど、ランチをしようと誘ってくれたり、旅行に誘ってくれたりする。
先日は、久しぶりに外に出て、バドミントンをして、おいしいケーキを食べた。体を動かしたのも、誰かと面と向かって笑いあったのも、すごく久しぶりだった。その時間が、私にはとても貴重で、うれしかった。
でも、本当にうれしかったのは、その行動の裏にある「気持ち」だった。私が無理をしていないか、家にこもりきりで心が疲れていないか、そんなふうに私を心配してくれるその想いが、何よりありがたかった。
また、もう一つ心に残る出来事がある。小学校以来、ほとんど連絡を取っていなかった子から突然連絡が来たのだ。
「今どうしてる?差し入れ持って行こうか?」
その子は、小さい頃から何でもできる子だった。可愛くて、勉強もスポーツもできて、みんなに好かれていた。私とは違う「ちゃんとした人」。
私は勝手にその子と自分を比べて劣等感を感じていた。だから、会うのが怖かった。自分の今の状況を知られたくなかった。何もしていない自分が、その子の前に立つのが恥ずかしかったのだ。
でも、会うことになった。差し入れにケーキを持ってきてくれ私の部屋で少しだけ話した。私は思わず見栄を張ってしまった。
「最近は勉強もしてるし、高校ではできていたし」
なんて、過去の話を引っ張り出して「私は大丈夫」なふりをした。でも、きっと嘘だってバレていたと思う。
その後、その子から「勉強、一緒にしてみない?」と連絡が来た。私はまた、「大丈夫」と返してしまった。でも、そんな私にその子は「教えてあげるよ」と言ってくれた。そして、実際に勉強を見てくれることになった。
怖かった。自分の「できなさ」がバレるのが怖かった。ずっと「私はちゃんとしてる」「できる子だ」と思われたくて、虚勢を張ってきた。でも、その仮面はあっけなく剥がされた。
それでも、その子は変わらず接してくれた。わからないところを教えてくれた。ときには、「このままじゃ全然だめだよ。もっと現実を見ないと」と厳しいことも言ってくれた。
両親は「あなたのペースでいいよ」「がんばってるね」と言ってくれるけれど、私の未来を本気で案じて叱ってくれる人は、いなかった。
その一言で、私はやっと少しだけ、現実を見ようと思えた。
思えば、私はずっと「できない自分」を隠していた。人と比べて、勝手に落ち込んで、勝手にこもっていた。でも、私の周りの友達は、そんな私を責めなかった。ただ静かに、でも確かに、私の手を引っ張ってくれていた。
『気にかけてくれる人がいる』それだけで、私は少しだけ前を向けるようになった。
私はまだ、何も成し遂げていない。学校にも通っていないし、働いてもいない。でも、そんな私を見捨てず、信じてくれる人がいる。その存在が、私の背中をそっと押してくれる。
うれしかったのは、ケーキでもバドミントンでもない。ただ、誰かの「あなたのことを考えているよ」という想いに、触れることができたこと。それが、何よりも心を動かした。
もし、今、自分のことを「ダメだ」と思っている人がいるなら、どうか忘れないで。あなたを大切に思ってくれる誰かが、きっとあなたのそばにもいると思う。
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