まだ2025年が始まって半分も経っていないが、私はすでに「今年の嬉しかったことベスト3」に入ると断言できる出来事に出会った。

それは、アルバイトで担当していた家庭教師の生徒との別れと、その別れに込められた想いに胸を打たれた出来事だった。

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私は大学生として勉強の傍ら、家庭教師のアルバイトをしている。

3年前、担当することになった高校1年生の男の子は、英語も数学も大の苦手。むしろ、嫌いを通り越して「拒絶」しているようだった。

アルファベットを見るだけでかゆくなるとか、数式を見ただけで頭が痛くなるとか、そんなことを本気で言っていた。性格も決して明るいタイプではなく、内気というより臆病で、私がどれだけゆっくり優しく話しかけても、緊張で目をそらし、言葉を詰まらせてしまうような子だった。

そんなスタートだったから、正直、最初の数ヶ月は手応えがなかった。でも、回を重ねるうちに、少しずつ表情がやわらかくなり、質問にも小さな声で「うん」や「わかった」と返してくれるようになった。

成績が急激に上がったわけではない。でも、一緒に「わかる」瞬間を積み重ねていくうちに、彼の中の何かが少しずつ変わっていくのを感じていた。

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3年生になると、進路をどうするかという話になった。周りの友人たちが推薦やAOで早々に進路を決める中、彼は自分の「行きたい」と思った学校を目指して最後まで一般受験に挑むことを選んだ。昔の彼からは想像もできないくらい、自分の夢に対してまっすぐで、逃げずに努力しようとしていた。

私自身もその頃、大学の勉強が難しくなってきていた。そんな中での週に2度の授業は、彼と私の励まし合いの時間でもあった。「冬の朝は布団の誘惑に負けそうになるよね」とか、「肩こりひどいよね」とか、「眼精疲労にはここのツボを押すといいよ」なんて、勉強だけではない話もたくさんした。教える立場ではあったけれど、彼の努力する姿に私の方が励まされることも多かった。

そして迎えた受験本番。無事に試験を終え、最後の授業の日がやってきた。正直、名残惜しさはあったけれど、ここまで来たんだという達成感もあった。最後は笑顔で何百回目かの「今日もありがとうございました」を言い合い、授業は終了した。

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数日後、自宅に大きな段ボールが届いた。送り主はその生徒と保護者の方。箱を開けると、たくさんのお菓子、調味料、そして手紙とお守りが詰まっていた。

お菓子は、見たことのあるものも多かった。スーパーやコンビニで売っているような、特別高価ではないけれど、誰かの「好き」が詰まっているようなラインナップだった。形式的な「ありがとう」ではなく、「これ、先生が好きそうだな」「これ、食べてほしいな」という気持ちが伝わってきて、それだけで胸が熱くなった。

お守りは、てっきり保護者の方が入れてくれたものだと思っていた。でも、手紙を読んでわかった。あれは、生徒自身が近所の神社に足を運んで、私のために選んでくれたものだった。私が以前、彼にお守りを渡したことがあったのだが、それを覚えていて、同じように返してくれたのだと知って、思わず笑ってしまった。なんて可愛らしいお返しだろう。

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そして最後に、生徒本人からの手紙を読んだ。そこには、「英語と数学が好きになった」と書かれていた。さらに、「高校を卒業するよりも、先生との授業がなくなることの方が寂しい」とも。大学に入ったら一人暮らしを始めて、英語も数学ももっと自分で勉強したい、そんな目標も綴られていた。

今まで「授業楽しい」と言ってくれたことはあった。でも、その時は半分くらい社交辞令だと思っていた。でも、手紙や贈り物、お守りの一つひとつが、すべてその言葉が本音だったことを物語っていた。
ただ、私にできることをしていただけなのに、こんなにも感謝されるなんて。こんなに人の役に立てるなんて。そんなふうに思わせてくれた彼に、私の方こそ感謝したい。そして、この経験は、きっとこの先ずっと私の心を温め続けてくれる。