あの頃のように祖母の膝に座る私の首元で輝く、16年温められた約束

小さい頃、私は甘えん坊で、よく祖母の膝に乗せてもらっていた。すると、目線の高さにはいつも、祖母の首元でキラキラと輝くネックレスがあった。チェーンは金色で、トップには4歳の私の小指の爪ほどもありそうなダイヤモンドがあしらわれていた。
祖母が私を膝に乗せ、とんとんと背中を叩きながら揺れる度、ダイヤはキラリと様々な色に変化する。祖母の温もりを感じながらそれを眺めるのが、私は好きだった。
「おばあちゃん、そのネックレス綺麗ね」
「なつめはこうしてるといつもそういうねぇ」
だって綺麗なんだもんと私が笑うと、祖母はぎゅうっといっそう強く抱きしめてくれるのだった。
そんなある日、また私がいつものようにネックレスを褒めると祖母は微笑んで言った。
「そんなに言ってくれるんだったら、私が死んだらあげるよ」
「えー、そんなに?長すぎるよ、だっておばあちゃんは100歳まで生きるんだもん!」
「ふふふ、おばあちゃんも歳じゃけえね、約束できる自信ないわ」
その時の私には、人はいつか亡くなるということがまだよく分かっていなかった。
「だって、大人になったら結婚するかもでしょ。そしたらドレス姿も見んと!」
「確かに見たいわ、でもそんなん言ったらひ孫も抱っこせんといけんし、きりがないね笑」
「そうよ、だからおばあちゃんは100歳まで生きるの!」
「そうかぁ、じゃあネックレスはなつめが20歳になった時ね」
そうして2人で指切りをした。
年月が経ち、次第に祖母の膝に乗せてもらうことはなくなっても、そのやりとりだけは続いた。10歳になり、小学校で二分の一成人式をした。将来は薬剤師になると発表した帰り道、祖母は少し茶化して言った。
「小さい時は甘ちゃんだったのにね。抱っこするといっつもネックレスがって言って」
「もう、いいじゃん。あと10年で私のよ」
それから、祖父が亡くなった。ストレスからか祖母は体調を崩した。それでも、約束は忘れていなかった。
「5年後にネックレスをあげんといけんもんね。こんなところでくよくよしとけんわ」
その気合いのおかげか、祖母は元気を取り戻した。
そして2023年9月、祖母はいつになく軽い足取りで、おいでと私を呼んだ。私の目線は、立って向かい合っていると、ちょうど背の高い祖母の首元にくるようになっていた。
そこにはいつものネックレスはなく、手には見たことのない紺色のビロードのケース。ケースを開け、久しぶりにまじまじと見ると、16年前の約束の日からちっとも色褪せないネックレスがそこにあった。あれから私は50cm程背が伸び、祖母の背は5cmほど小さくなったというのに。
「ねえ、これおばあちゃんがつけて」
祖母に背を向けて膝にちょこんと座る。
「もう座高が合わんくてつけにくいわ笑」
「座高が高いなんて失礼な笑」
きゃっきゃとはしゃぎながら、震える手でつけてもらった。16年温められた約束が私の首にあるのはなんだか不思議な気がした。
「自分でつけてたらあんまり見えんかったけど、やっぱりそのネックレス綺麗ね」
「もう返してあげんよ笑」
「分かっとるよ笑。ただ、私も大義を果たしたなと思って」
「え、まだでしょ?100歳まで生きるんだから」
「え?あの約束ってそこまでなん?」
当たり前よと勝ち誇る私に、祖母は呆れたようだったけれど、なんだか嬉しそうに見えた。
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