保育園に落ちたことを機に、髪を明るくして、自分の輪郭を取り戻した

会社に髪色の規定はない。でも、私はずっと暗めの髪を貫いてきた。
黒かこげ茶。派手すぎず、真面目に見えて、誰からも指摘されなさそうな色。
本当は、明るい髪に憧れがあった。
でも「清楚なほうが無難だよな」とか、「変に目立って印象悪く思われたくないな」と考えて、結局いつも地味めな色を選んできた。
誰かに明確に強制されたわけじゃない。でも、そういう“空気”ってあるよね。
社会人の処世術として、同調圧力に従ってきた。
そんな私が、ある日、人生で初めてブリーチをした。
その理由は、子どもが保育園に落ちたからだ。
育休がもうすぐ終わるタイミングで、職場復帰の準備も万端に整えていた。
家の近くの保育園に申し込み、待機児童の状況も調べて、通える範囲はすべて応募した。
でも、届いた通知には「保留」という文字。
予想以上にショックだった。
書類を読んで、思わず涙がこぼれた。
「こんなに頑張ってきたのに、どうして…」と、何日も落ち込んだ。
ーーと言いたいところだが、実際はちょっと違った。
狙って落ちたわけじゃないけれど、落選の知らせにそこまで悲しまなかった。
むしろ、「育休が延長できる!子どもと過ごす時間が増える!」と、少しホッとしたというのが正直な気持ちだった。
こういうことを口にすると反感を買うかもしれない。でも、それがリアルだった。
とはいえ、保育園に入れなかったという事実は、キャリアの不安定さを突きつけてくる。
いつになったら復帰できるのか、このままずーっと入園できない可能性もある─そんな不安が、日常をじわじわと侵食していく。
落ち着かない毎日。それでも、明るく染めた髪でなんとか気分を上げている。
そんなこんなで、私はめちゃくちゃ明るい髪色になった。
金髪とまではいかないけれど、自分史上最強に明るいベージュカラー。
鏡を見た瞬間、思わず笑った。「あ、これだわ」
髪色を変えるだけで、不思議と気持ちが切り替わる。
根拠なんてないけれど、「もう誰にも見くびられたくない」ってスイッチが入った。
まるで戦闘服を着たような感覚だった。
ママになると、人から軽く扱われることが驚くほど増える。
以前書いたエッセイでも触れたが、会社員時代にも“女性”扱いをされてモヤっとした経験はあった。
でも、子連れの今はその比じゃない。
赤ちゃんと一緒に歩いていると、1日に何度も宗教の勧誘に声をかけられるし、見知らぬ人から突然失礼な言葉を投げかけられることもある。
守るものがある分、こちらから強く出にくいのを見透かされている気がして、モヤモヤする。もちろん、相手には悪意がないのかもしれない。でも、しんどいときはしんどい。
だから、私は明るい髪で「強そうな母」を演じることにした。
これはただのイメチェンじゃない。自分を保つための手段であり、
他人からの扱いを自分でコントロールするための鎧でもある。
ベージュの髪に、少し濃いめのメイク。ヒップシートをつけて、スニーカーで歩く。
ほんの少しだけ「近寄るなよ」という気迫をまといながら、今日もベビーカーを押している。
保育園には落ちた。
でも、自分の気持ちは取り戻せた。
今の私は、前よりちょっと強くなっている。
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