ずっと言いたかった「ごめんなさい」を母の日のデジタルギフトにのせて

今思うと、ずっと言いたかったんだと思う。
喉元まで出ているのに本人を目の前にするとなぜか言えなかった。
どうしても「恥ずかしい」という気持ちが勝ってしまった。
喉元まで出ているのに。あとは声に出すだけなのに。
けれど今年、母の日にやっと言えた。
ラインのデジタルギフトに添えたメッセージカードにのせて。
私と母は性格が似ている。
親子なんだからある程度は似るものだろう。しかし、それにしてもクローンか?と疑いたくなるほどに、思考が、物言いが似ている。立ち姿まで似ている。
だから、なにか話をしていると気がつく頃には口喧嘩に発展している。
磁石のN極とN極を近づけるとパーンと離れてしまうように、似たもの同士が近づきすぎると、反発して離れていってしまうようだ。
口喧嘩のスタートはいつも母。
「あんたのためにいろいろしてきたのに、何その態度?」
「今まで好き勝手やっといて、そういうことを言える立場なの?」
私の何が母の逆鱗に触れたのか、よくわからなかった。
「別に頼んでないし。何が悪いの?」という気持ちだった。
しかしこれ以上火に油を注ぎたくないので、黙っておく。
すると母は自分の親の話を持ち出した。
「あんたもそうやって、私を馬鹿にするのね」
勢いのまま私が悪者ムーブでいたが、冷静になってみるとなんだかおかしい。
「あんた、も?」
どうやら、私の言動が自分の親と似ているところがあるらしい。
いやまて。私が生まれる前のことって、私に関係なくない?
子供だから気を遣う必要がないのだろう。言いたい放題だ。それにしても身に覚えのないことで怒られる筋合いは無い。
私は今まで親に対して反発心を抱くことはあっても、言葉にしたことは無かった。なぜか強く言えなかった。そもそも言うものではないとさえ思っていた。
しかしこれは我慢できない。
「私が生まれる前のことを引き合いにだすな」
「文句があるなら当人たちに言ってこい」
初めて強く言った。
そして、初めて連絡を絶った。
好き勝手してきたことは事実だが、そこまで言われるほど悪いことをしてきたとは思わない。
母であっても、自分を苦しめる相手とこれ以上関わる必要はあるのか?
関係を断ち切ってしまってもいいのではないか。シンプルにそう思った。
ストレスの根源は断ち切ろう。
ラインも電話も何もかも、向こうからのアクションには応じない。シャットアウトした。
そこから1か月が経った。今日は母の日だ。
あれから何度も電話が鳴った。ラインの通知もたまっている。
別にこのまま無視を決め込んでもよかった。
けれどふと、「もうこのまま一生会わないのか」と思った。
それは違うと思った。
会いたいかと聞かれると別にそうではないけれど、一生会わないのは違うと思った。
今の状況を変えたいのならば、何かアクションをしなければ。
気持ちばかり焦るものの、何をどうしたらいいのかわからなかった。
ふと、横にいる彼氏を見ると、彼は彼の母にスタバカードを送っていた。
「何してるの?」
「母の日だし、なんか送ろうかなって」
これだ。
母の日にかこつけて、私も同じことをしてみよう。だまされたと思って。
ラインギフトなんて送ったことがない。
やり方もよくわからない。でも恐る恐るポチポチと進めていく。
スタバは飲まないし、甘いものもいまいち。
まぁこれなら使ってくれるんじゃないか。
あんなに毛嫌いしていたのに、母の好みに思いを馳せる。
親子の縁は切ろうと思っても簡単には切れないものなのだな。
血のつながりの引力に思いを馳せる。
ギフトにはメッセージカードを付けることができる。
なんて書こう。
適当にそれらしい文言にしてもよかったのだが、なんだかそうはしたくなかった。
熟考すること30分。
これだ。
「母の日ですね、ごめんなさいとありがとう」
いしいともこさんのしろまるが「えっと……」ともじもじしている画を選んだ。
今振り返ると、私も口下手すぎる。
もっと早く素直になればよかったのに。
けれどこれが当時の正直な気持ち。飾り過ぎない等身大の自分がこれ。
「ごめんなさい」と言えた。
すると自然と「ありがとう」が言えた。
やっと言えた。
そして自分の心の奥にしまい込んでいた自分の気持ちに気が付いた。
わたしはこれをずっと言いたかったんだな、と。
好き勝手して心配させて、ごめんなさい。
つい言いすぎてしまって、ごめんなさい。
ありがとうといえなくて、ごめんなさい。
好き勝手させてくれて、ありがとう。
いろいろ支えてくれて、ありがとう。
いつも、想ってくれて、ありがとう。
勇気は出さなくて良い。
だまされたと思っていつもの自分とは180度違う行動をしてみると、心の奥にあるまっすぐな気持ちを、本当に伝えたい気持ちを、伝えられるんだと思う。
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