卒業式をきっかけに街に戻った。8ヵ月ぶりといえば長くも聞こえるが、9月に寮を出たのが昨日のことのようだ。

飛行機のチケットを予約した頃から、不安が少しずつ膨らんでいた。自分の居場所がもうそこにないことがショックになるのではないか。誰も覚えていないかもしれない。全てが変わってしまったら。

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しかし、空港からタクシーに乗り、見慣れた石畳の通りを通ったとき、そんな恐れは薄れていった。街は変わっていなかった。同じ古い建物が、同じように佇んでいる。木々は少し大きくなり、新しい季節の装いをしていたが、その本質は変わらなかった。

寮に着くと、イーチェンが玄関で待っていた。「おかえり」と彼女は言った。ただそれだけの言葉で、私の中の何かが和らいだ。

MBAの同級生たちは豪華なホテルのバーで再会パーティーを開いていた。しばらく顔を出したが、やはり私は寮の仲間たちと過ごす時間の方が心地よかった。寮の共用リビングに集まり、以前と変わらぬ会話に花を咲かせる。誰かの就職の話、誰かの新しい恋人の話、そして決して結論の出ない些細な議論。MBAでの経験は私を成長させたかもしれないが、こうした何気ない時間の価値は変わらなかった。

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「コーヒーでも入れようか」とドグラスが言った。私たちは寮の上階にある共同キッチンに向かった。そこには、あの馴染みのコーヒーマシンがあった。私のヘビーユーザーぶりは寮内で有名だった。棚を見ると、私の使っていた黄色いマグカップがまだあった。今は誰か別の人がそれを使っているのだろう。少し感慨深くなったが、不思議と寂しさは感じなかった。

「君、イギリスに残らなかったんだね」と、かつてのルームメイトが言った。確かに私の中に小さなコンプレックスはある。多くの友人たちがロンドンやマンチェスターで新しい生活を始める中、私は故郷に戻ることを選んだ。しかし、この数日間で気づいたことがある。
結局のところ、人生とは自分で選びとるものだ。一緒にいたい人も、過ごしたい時間も、住みたい場所も。そのために必要なものを得るための努力をし続ける。それだけのことなのだ。

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バーで一杯飲みながら窓の外を見た。キャンパスの灯りが夜の闇に浮かび上がっている。この街に戻ってきて、まったく旅行している気持ちにはならなかった。それは観光地に来たような感覚ではなく、自分の二つ目の家に帰ってきたような安心感だった。

私がいなくなっても、この場所は変わらず存在し続ける。そして私がここにいなくても、この場所の一部は私の中に生き続けている。距離は関係ない。大切なのは、つながりを感じられることだ。

明日、私はまた飛行機に乗る。しかし今度は、「さようなら」ではなく「また会おう」という気持ちで。この街、この場所、そしてここで出会った人々は、いつでも私を迎えてくれるだろう。