生きていれば、「辛い!」で頭をいっぱいにしたい日もある

宮崎名物「辛麺」を知っている人は、どれだけいるんだろうか。
唐辛子、ニンニク、醤油を感じるコクのあるスープに、たっぷりの溶き卵とニラ。これに、コシはあるがツルツル食べられるこんにゃく麺はよく合う。
最近まで私も辛麺を知らない人間の1人だったが、何に近いのか上手いたとえを探してみると、ラーメンとは遠い親戚のような距離さえ感じるし、どちらかといえば中華の春雨スープに近いような気もする。
長いこと東京で暮らして、春からは研修で九州へ。
何も分かっていないのに労働力としてカウントされ、あたふたする毎日を送っていたところ、会議があるらしく集合がかかった。組織の人間が一堂に会するような場で、研修生の我々はなんと2列目に座らされた。
1時間ほど発表を聞いていたが、質問や意見を述べる時間が設定されている。全員が意見を言わされるという噂を知ってか知らずか、同期が次々と手を上げて意見を述べていく。鼓動がうるさい。
――ヤバい、私も発言しないと!
絞り出した発言は的を射ず、偉い人に否定され、偉い人にフォローされた。
その日の帰り道は、いつも通り音楽を聴いて帰った。もちろん馬鹿みたいに明るい曲を聴いている。耳から入ってくる軽快なメロディはすぐにBGMになり、脳内で今日の大恥が再生される。思い返してもやっぱり恥ずかしくて、両耳はイヤホンで塞いでいるのに、「わぁー」っと小さく叫んでしまう。こんな日に向かうのはもちろん辛麺屋しかない。
冷房の効いた辛麺屋に入って、涼しさに感動する。
トマト辛麺や酸辣辛麺など、変わり種辛麺も間違いなく美味しいが、私は普通の辛麺を頼む。なぜなら、アレンジにではなく唐辛子に50円を使いたい。辛麺屋は、通常の辛さは800円前後と安いが、辛さに夢中で値段を見ずに激辛を頼むと250円追加なんてこともあるので注意しよう。
赤いスープを一口すすり、感想はもちろん、辛い!である。食べてるうちにじんわり汗をかいてくる。口内が唐辛子に反応したら、そのうち全身がポカポカしてくる。いつも飲んでいるはずの水も、何だか甘い。
ここで、実は頼んでいた石焼チーズご飯が登場する。旨辛のスープを、器がアチアチの時にあらかじめかけておく。ジューっというのを聞きながら麺を啜る。そうしていると器の熱で溶けたチーズがスープと絡んで、ちょっと焦げたチーズとふわふわのご飯が楽しめる。
はち切れそうな腹を抱えて店を後にする頃には、もう達成感すら覚えている。
辛いものを食べると、「辛い!」で頭がいっぱいになる。
ちょっと頑張った日は美味しいものを食べたい。でも、美味しさは、最初の一口が最高で、おいしいという感情はだんだん薄くなっていく。
それに比べて、「辛い!」は食べてる間ずっと続く。何なら食べ終わったあとですら辛い。
生きていれば「辛い!」で頭をいっぱいにしたい日もある。「からい」と「つらい」は両方「辛い」と書く。「からさ」で「つらさ」を忘れたっていい、ご先祖様がそう言っているような気がするのだ。
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