成人式が終わった日に決めたこと。はじめての前髪と始める冒険

私は物心がついた頃から、ずっと前髪を作っていなかった。長さはミディアム。ほぼずっとその長さで、髪が伸びたら美容院に行き、適度に切ってもらうのがいつもの流れ。そもそも髪型に対して、そんなにこだわりはなかった。
むしろ、顔周りに髪の毛があるのが目障りで、思い切って一つに束ねることも多い。朝起きて、寝グセがひどい時、いくら頑張っても寝グセがなおらない時、ある程度髪が長ければ、束ねて解決することができるという便利さも魅力だと捉えている程だ。
中学生の時、一度、ボブにイメチェンしたことがある。前髪はなしで。それは、ボブという髪型にしたかったというより、むしろ、髪型が変わったことを周囲に気付いてもらいたいという謎の欲求を満たしたかったからだと思う。当時は多感な時期で、なんてこともない他人からの声掛けがやけに嬉しかったりした。
今でも、ほんの少し髪を切っただけなのに、「髪、切ったんですね」と声を掛けられると嬉しい。自分のことをちゃんと見てくれているんだなという喜びに満たされる。それが、たとえ、好きな人でなくとも、その何気ない一声が私の心を癒してくれる。
成人式が近い頃、私はなぜか急に髪をバッサリ切りたいという衝動に駆られた。なんなら、前髪も作りたいと思った。いつもなら、即行動に移せるものの、この時に限っては、それはできなかった。なぜかというと、私の頭の中で「成人式」というライフイベントがちらついたからだ。せっかくの成人式、またとない機会に振袖を着て、髪を綺麗にしてもらって。どうせなら、普段できないような華やかなヘアアレンジをしてもらいたい。そんな思いがあったのだ。
髪が短いとアップにすることができないし、ヘアアレンジのレパートリーも限られてしまう。そう思った私は、どうしても成人式が終わるまでは髪を切りたくなかった。前髪だけ先に切るという選択肢もなくはないが、どうせ髪を切るなら、思いっきりイメチェンしたい。そんな訳で美容院へ行くのはしばしお預けとなった。
私は髪を切るのが待ちきれず、自分で髪を折り曲げてなんちゃって前髪を作って、おおよそのイメージを思い描いたりしていた。そして、成人式が終わり、いよいよ美容院へ。私は前髪ありのボブスタイルをオーダーした。鏡の前で、どんどん変わっていく自分の姿を目の当たりにするのは、なんだか不思議だった。
今まで、したことのない髪型に挑戦するのは、ある種冒険だ。そして、一番思い悩んだのは前髪をどのくらいの長さにしてもらうかということだった。一度切ってしまうと元に戻すことはできない。
私自身も初めてということもあり、保身の意味合いで、やや長めにしてもらうことに。美容師さんからは、「このくらいの長さで横に流すのも良いですよ」と言われた。私は納得し、少し長めの前髪で良しとした。
早速、アルバイト先の上司から、「めっちゃ、短かなってるやん」と声を掛けられた。
私自身も、あまりの変わりように、そう言われて嬉しくも照れ臭かった。照れ臭いという感情は子供の頃には、あまり感じていなかったように思う。しばらく、新しい髪型で過ごしていたけれど、なんとなく前髪が鬱陶しく感じられた。なんだか長すぎる。私の髪質のせいなのか上手く流れず、目にかかる。
どうしようかと考えあぐねた結果、私は約1週間後、再び美容院を訪れた。事情を説明し、前髪をもう一度、切ってもらったのだ。私の前髪は流すということができないことを学んだ。
それ以来、前髪は伸ばしたり、切ったりの繰り返しで、髪の長さも長かったり、短かったり、その時によってバラバラだ。けれど、パーマやカラーは一度もしたことがない。髪が痛みそうで嫌だというのもあるけれど、なんだかんだ私は手入れしやすい髪型に惹かれる。
髪型は、その人の第一印象にも繋がる重要なポイントだけれど、髪型に悩まされるのは好きではない。それが私の本音だ。
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