夏の札幌。彼と一緒に訪れたことで、過去は新たな思い出になった

北海道生まれの私にとって、5歳から18歳まで過ごした地元には色々な思い出がある。
それは、良いことも悪いことも。
「北海道に戻りたい」という気持ちと、「地元には戻らなくていいや」という色々な気持ちが混ざり合っていた。
ある年の夏。
私は彼と札幌を訪れた。
2泊3日で北海道のご飯を堪能する旅だった。
太陽の熱を感じつつも、日陰に入れば涼しく感じる札幌らしい夏の日だった。
札幌駅までJRで向かい、早速訪れたのは大通公園で開催されているビアガーデン。
二人ともビールはあまり得意ではないが、青く広い空の下で飲むビールは美味しく感じた。
ほろ酔いの状態で、大通公園を彼と歩くことも不思議な気分だった。
次の日、地元に彼を連れて行った。
札幌駅から地下鉄に乗り、駅からバスに揺られてたどり着く、私の地元。
私の思い出が一番残っている場所。
高校生の頃、通学に使っていたバス停で降り、元実家へ向かう。
そこはもう違う家族が住んでいて、玄関先の様子も花壇の花も、全部が変わっていた。
毎日のように遊んでいた家の前の公園も、なんだか小さく見えた。
朝のラジオ体操の音で目が覚めて、寝起き10秒で公園へ向かったことも、その後に友達と朝から遊んだことも、なんだか懐かしかった。
ふわふわした気持ちのまま近くのセイコーマートでアイスを買い、私が通っていた小中学校へ向かった。
道中、どんどん色んなことを思い出した。
小学校の登下校のこと、放課後に友達と遊びに行ったこと、中学校の部活のこと、泣きながら帰ったあの日のこと。
全部、この道に思い出が残っていた。
溶けかけているアイスが点々と道に落ちていった。
小さい頃から訪れていた大きな公園へ向かう時、隣に彼がいることが不思議だった。
大人になってから出会った彼が、私の知っている場所にいるということが変な感じだったのだ。
そんな風景を見ていると、小さな頃の自分の思い出と今の私が混ざり合う気分になった。
あぁ、もう私は幸せだから、この場所に戻らなくていいんだ。
そう直感で思った。
風景は何も変わっていなかったし、あの頃のままだった。
それでも、もうこの場所に戻ることはないのだろうなと感じた。
私にとって、地元は良いも悪いも全部詰まっているのだ。
彼と一緒に訪れたことで、私の過去は新たな思い出となった。
どの場所も、幸せな私が彼と旅行で訪れたところになったのだ。
彼は「あなたがこの場所で育ったこと、何となくわかる」と言っていた。
今の私があることは、確実にこの場所のおかげであって、どんな思い出も必要だったんだなと思えた。
だから、今の私は彼と生きているのだ。
現在、実家が札幌に戻り、最近は3か月に1回帰省している。
それでも、自分の意思で地元を訪れることはもうないだろう。
あのとき、彼と一緒に歩いた道が、私にとって最後の思い出にしておきたいのだ。
最後に食べたアイスの味を、あの夏に閉じ込めておきたいのだ。
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