選挙や国政の話のときに必ず出てくる話題の一つが社会保障費の増加。特に医療費の増大が国の財政を圧迫していると言われ、診療報酬が高いせいだの医師が無駄な検査や処方を行うせいだの言われることがある。医学生の自分にとって聞き捨てならない意見だ。これらの話題に関心を持ったのをきっかけに、選挙そのものへの関心がより強まった。

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中高の同級生である私の親友は高3の受験期直前に病気を患い、闘病しながら浪人生活を送ること早3年目。気晴らしとお金稼ぎのために、選挙のときは投票立会人のバイトをしている。今回の参議院選でも立会人を務めた、との近況報告を受けたついでに国政の話題になった。

「勤務医になっても所得税を絞られて終わりだから、医師になっても生活が安泰とは言えない。美容医療に進もうかな」

浪人期間が長くなるにつれて、彼女の発言はだんだん夢のない内容になっているのが私には気がかりだった。高校時代は産科に興味があるとか、自分と同様に治らない病気に苦しむ人を助けたいと言っていたのに、今はもう社会貢献とか興味はそっちのけらしかった。「浪人生活が長引けば精神的に辛いだろうし、夢を見失ってもしょうがないよな」

そう考えて、医師になってからの悲観的な将来像に関する発言は軽く受け流してきた。

今回もいつもの流れかと思い深く気に留めていなかったが、次に続いた一言に私の中で何かがプツンと切れた。

「社会貢献はボンボンにやらせておけばいいんだよ。ネキは障害のある妹もいるのに、海外支援とか、なんでお金にならないことを目指すの?」

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初めて親友に夢を否定された。私は国境なき医師団に憧れて医師を目指した。年齢を重ねるにつれて興味は地域医療に変わったが、それでもいつかは海外で医療支援活動に参加したいと思っている。この夢は中学のころから同級生に散々馬鹿にされてきた。

「どうせ自己満足だろ」

そう何度もいわれてきて、憧れを夢に持つことがこんなにもいけないことなのか自問自答してきた。それでも親友だけは絶対に私の夢を悪く言わなかった。むしろ、私が辛い時には「スケールの大きい夢を持つネキはかっこいいよ」と励ましてきてくれた。なんで医師を目指したのか尋ねたときには「気づいたときにはネキの背中を追い続けていた」とも言ってくれた。夢の方向性こそ違えど、親友だけは己の高みを目指せる仲間だと信じていた。それなのに。

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確かに彼女のいうことは正しい。私も彼女の家庭も世帯年収は平均より低く、決して生活に余裕があるわけではない。加えて、私には障害のある妹がいる。きっと就職してから妹のことで妥協しないといけないことはあるだろう。

今の目標は医師になって現場の経験を積んだ後、医療政策に関わり障がい者やその家族がより生きやすい福祉社会にすること、海外支援はこれらの目標をある程度達成できた後のご褒美的な位置づけであることを説明した。

「ちゃんとしっかり考えているんだね」

親友はそういって納得してくれたけれども、私の心は晴れなかった。

夢と現実のはざまで折り合いをつけるのは難しい。けれども、私が辛い勉強に耐えて頑張ろうと思える原動力は夢だ。100%平等で全員が幸せな社会は実現できなくとも、今困っている人たちが少しでも生きやすい社会にしたい。自分がその一助になりたい。この夢だけがなんのとりえもない私を支えてくれている。

正しい夢って何だろう。その答えを探せないまま、また一つ試験が終わった。