出かけたい気持ちを引き出してくれた、SNSで出会ったワンピ―ス

数年前の初夏。SNSをぼんやり眺めていたら、黒いノースリーブのワンピースの設計図と目が合った。
それはパリッとした硬めの生地で、くるっと丸めると巾着になり、手軽に持ち運べるポータブル仕様のワンピース。
それでいて、両サイドについているポケットが大きい。本当に何でも入るのでカバンいらずでお出かけできてしまう。当時としては斬新なデザインだった。
ワンピースに一目ぼれした私は、その場ですぐにオンラインストアに飛んだ。
値段を見て一瞬躊躇するも、それだけの価値があると感じて購入手続きを終えた。
しばらくしてそのワンピースが巾着の状態で手元に届いた。
紐を緩めて広げると、一瞬で洋服に早変わりした。
鏡の前で試着すると、それはおしゃれで、機能的で、軽やかだった。
そしてそのワンピースを着た私はまるで「自由に生きてるかっこいい女」って感じで、しばらくそんな気分に浸っていた。
この服を着て、どこへ行こう?誰に会おう?
そんなふうに、まだ見ぬお出かけに思いを馳せながら、私はこのワンピースをクローゼットに迎えた。
実際には、その服で出かけた回数はまだ少ない。
ひとりで横浜のみなとみらい周辺をぶらぶら歩く日に何度か着ていったくらいだ。
真夏の太陽がジリジリ照りつけていたけど、日焼け止めをしっかり塗って、腕を出すことを選んだ。
涼しくて、動きやすくて、そして何より、鏡に映った自分がちゃんと「似合ってる」と思えた。
いつもより背筋が伸びて、ちょっと旅人っぽく見えるのが嬉しかった。
ある日、私はその背中部分を、アイロンでうっかり溶かした。
このワンピースの素材がアイロン不可であることをすっかり忘れていたのだ。
アイロンをワンピースから離すと、素材がチーズのようにのびて、全身がヒュッと冷えたのを覚えてる。
結果、大きな穴が空いてしまい、一瞬でダメにしたことにしばらく落ち込んだ。
驚きのあまり、その場で1時間ほどは、その穴をただひたすらぼんやりと見つめていた気がする。
でも「捨てる」選択はちっとも浮かばなかった。
とりあえずクローゼットに入れて、それからワンピースをどうするかを考えよう。
そうしてワンピースはそのまましばらく寝かせることになった。
そんな行動に出たのは、あの日着たときのワクワクや、鏡に映ったちょっとかっこいい自分の姿が、忘れられなかったのかもしれない。
この服は私の「お出かけしたい」というワクワクする気持ちを引き出してくれる存在だった。
そして、結局このワンピースは手直しをした状態で、今も私のクローゼットにある。
背中の一部が溶けたワンピースを前に、諦めるよりも「どうにかしてまた着たい」と思ったからだ。
ワンピースの丈を少しだけ短くして、あて布を作り、背中の穴の部分に隠すように縫い付ける。さらに金色のリボンを、本に付いている紐のしおりのように背中にあわせる。
すると、穴は見事に気にならなくなった。
手直ししたワンピースを試着して、全身鏡にうつる背中の金色を眺める。
新たなアクセントが追加されて、世界で一つだけの私のワンピースに生まれ変わった。
それが嬉しくて鏡の前でくるくる回ってはしゃいだ。
この服は、「かっこよく、どこかに出かけたい」という私の心そのものだ。
今でもワンピースを着るたびに、「出会った時のワクワク」がよみがえる。
たとえこのワンピースにまた小さな穴が空いたとしても、また手直しを重ねるだろう。
それは、画面越しに出会った時の直感とか、「似合ってる!」と心から思えたあの感覚がずっと私の中に残っているから。
これからもこのワンピースとともに、おでかけを楽しみたいと思う。
さて、次はこれを着てどこへ出かけようかな。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。