どうやら代謝が良くないようで、なかなか汗をかけない。この夏も、一緒に帰宅した夫が滝のような汗をかいているのに対し、私はたらりと汗が一滴走る程度。個人差は理解しつつも、自身の体質に一種のコンプレックスを抱える中、ソロ岩盤浴にハマった。

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きっかけはとある休日。数週間前から外出の予定を立てていたものの、平日の疲れからかそわそわ落ち着かず、気分が乗らない。お出かけのつもりでいたオフの日、このまま家にいるのもなんだかもったいない気がする……。

ちょうどこの時期は新しい街での生活にも少しずつ慣れて、家周辺における行動範囲を広げてみたいなという頃だった。どこか近場でリフレッシュできる場所はないものかと、近隣エリアをGoogleマップでぐるぐるなぞると、どうやら30分ほど歩いたところにスーパー銭湯があるらしい。早速向かってみる。

初めて訪れるそこは、複数のサウナやゲーム場、レストランなど様々なスペースと、岩盤浴場前にはホワイエみたいな場所が広がっていた。公共施設の同じ空間にいる他人たちがそれぞれで家みたいに自由にくつろいでいる。室内なのに、どことなく公園のような開放的な公共感。地元では見たことのない様子に、早速心がちょっと躍った。

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岩盤浴、実は転勤帯同前に地元の友人とたまに行っていた。人の少ない時間帯に足を運び、私たちしかいない岩盤浴場内で、尽きない近況報告を小声でし合う。薄暗い非日常な空間が私たちをいつもよりも素直にしてくれる気がして、とてもかけがえない時間だった。

一方で、友人は大変代謝が良く、私の発汗よりもかなり早くピークを迎えるため、出入りのタイミングはお互いに気にかけながら行っていた。

そんな友人との体験を踏まえて初めて1人で嗜む岩盤浴は、最初から最後まで自分自身との向き合いの時間だった。もちろん無言だし、誰かに合わせることもしない。

…あ、今足先が完全にあたたまりきった…身体の中心まで熱が満ちた気がする…鼻の先に汗が浮いてきた…今胸を汗が滴ったな……。

自分の身体感覚ひとつひとつに意識を向ける。感じたことだけを頼りに、気持ちいいタイミングを見極めて体勢を変え、外に出て、そして繰り返す。気がつけば日々の生活において頭の中を浮遊し膨らみ続ける悶々とした気持ちや余計な思考は消えていく。頭の中でパタパタと開きっぱなしになっていた本が、きちんと本棚に収まった感じ。

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そして身体も、なんだかいつもよりすっきりする。普段の私には考えられないほどの汗をかき、600ミリのペットボトルを難なく1時間で飲みきる達成感たるや。(いつもは半日かけて飲むことも少なくない)精神的にも身体的にも、友人と楽しむのとはまた別の快感だった。清々しい。

岩盤浴の薄暗い空間やなんとなくパーソナルに区切られた設え、寝転ぶ姿勢が、お風呂やサウナより気持ちを自分に向けやすいのかもと感じた。友だちとだけでなく、1人でも、もっと行きたい。