将来やりたいことが決まっている人が昔からうらやましくて仕方がなかった。
あまりにも将来やりたいことがわからなくて、進路を決めるのにすごく苦労したからだ。

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子供の頃、将来の夢を聞かれると「キャビンアテンダントになりたい」と言っていた。
小学生の頃に1人で飛行機に乗った時、とても親切にしてくれたキャビンアテンダントさんが印象的でかっこいいと思ったから。

でも、今思えば本当にキャビンアテンダントになりたかったのか、やや疑問である。
なんとなく子供ながらに「キャビンアテンダントって言っとけばいいか…(かっこいいし、みんな褒めてくれるし)」みたいな気持ちが正直あったと思う。
それくらいあんまり自分の意志がない子供だった。

中学生から高校生で多少英語に興味を持てたので、とりあえず大学では英文学科に入学した。
しかし大学4年で始めた就活では、一切英語と無縁の会社ばかり受けていた。
どう頑張っても「英文学科を卒業しました」とは言えない英語力だったから。
むしろ英語からは極力離れた職種に就きたいとすら思っていた。

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こうしてまたしても「とりあえず」で就職した会社で1年半働いたが、あまりにも会社に適応できず、メンタルダウンで休職してしまった。
「とりあえず」で入社した会社なのだから、今思えば適応できないのも当然である。

休職している間、とにかく暇だった。
何もしないことが治療なので暇であることは正解なのだが、同級生が朝から晩まで働いている中、私は家で寝ているだけ。
その状況がとても苦しかった。
何もしたいことがなかった人生なのに、何かしなきゃ!という気持ちに駆られていた。

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そんな休職中、日課となっていた散歩をしていた時にふらっと立ち寄った本屋で、とあるライターの方が書かれた本に出会った。著者本人が自分の特性をうまく活かしてありのままに過ごしているエッセイで、それらの文章からとても勇気をもらった。

そしてだんだんと、「私もなんか書いてみようかな」という気持ちがわいてきて、「休職日記」と題して休職中の日常をブログに書くようになった。

これが、すごく楽しかった。
誰かに見せたいとか、世間の反応が欲しいとかそういうことを一切考えずに、ただ自己満でその日あったこと、思ったことを書く。
ただそれだけで、休職して空っぽだった自分が少し満たされていくような気がした。

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それから無事体調も回復してきて、転職を経て社会復帰した頃、なんと休職中に出会った本の著者であるライターの方が、オンラインのライティングスクールを始めるとの告知を目にした。

「これはもうやるしかない」
そう思って、流れてきた小舟に飛び乗るような気持ちで、後先考えずにスクールに参加し、短期間ながらライティングに関する授業を受けた。

卒業後、できれば書くことを仕事にしてみたかったが、プライベートでの生活の変化などもあり、今も会社員をしながら趣味で文章を書く生活を送っている。

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そんな私は将来、会社員をしつつも、時々文章を書くことも生業にしてみたいな、と思っている。

会社員である自分も諦めたくないし、文章を書く自分も肯定したい。
そんなわがままを叶えられたらいいな、と思っている、ひっそりと。

私がライターの方に書くことの楽しさを教えていただき、心の隙間を満たしていただいたように、いつかどこかで私の文章が誰かの心の隙間を埋められたら、それはもうお金をもらうよりも嬉しいことである。

実現できるかはわからないし、具体性も計画性も無い。
本当にただひっそりと思い描いているだけなのである。
だけど、何もやりたいことがなかった私にとっては、初めて本当に抱いた夢かもしれないなと思う。

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将来の夢を聞かれると、どうしてもかっこいいことを言いたくなってしまう。
だけど、夢は立派な職業でなくてもいいし、必ずしもかっこいいと思われるようなことでなくていい。答えられなくてもいい。
子供の頃には気づかなかったけど、今ならそう思える。

ふらっと流れてきた小舟に乗って見つけた小さな夢の種を、大事に育てていきたい。