「スマホを24時間触らないで過ごすなんて、絶対に無理」

そう思っていた私が、ある日突然、スマホなしの生活に挑戦することになった。きっかけは、ただの思いつきだった。「もしスマホがなかったら、私は何をするんだろう?」その答えを知りたくて、私は電源を切ったスマホをカバンの一番奥にしまい込んだ。

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朝起きてまず感じたのは、手のひらに何もない違和感だ。いつもならアラームを止めるためにスマホを探し、そのままSNSをチェックしてしまう。しかし、その日は代わりにカーテンを開け、窓から差し込む朝の光を全身に浴びた。肌に触れる空気がひんやりと心地よく、耳を澄ますと遠くで鳥たちが楽しそうにさえずっている。スマホの画面を見る代わりに、外の景色をじっと眺めていると、いつもの慌ただしい朝とは全く違う、穏やかで満たされた時間が流れているのを感じた。

日中、外出していると、何度も無意識にポケットに手を伸ばしてしまった。電車の中、信号待ち、カフェでの一息...。常にスマホを触るのが癖になっていたことを痛感する。隣に座っている人がスマホを眺めているのを見ると、何だか置いていかれたような、取り残されたような気持ちにもなった。でも、代わりに窓の外を眺めてみた。すると、今まで見過ごしていた街の風景が鮮やかに目に飛び込んできた。流れる雲、風に揺れる木々、行き交う人々の笑顔。いつもなら気づかない小さな看板や、道端に咲く花に目を留めるたび、新鮮な発見があった。

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正直に言うと、何度も誘惑に負けそうになった。友人からのLINEに返信したい、話題のレストランについて調べたい、仕事の連絡を確認したい...。そうした「今すぐ知りたい」「今すぐやりたい」という欲求に駆られた時が一番辛かった。スマホを手放せない理由は、便利さだけじゃない。最新の情報から取り残されることへの恐怖、友人との「繋がり」が途絶えてしまうのではないかという不安だったのだと、改めて気づかされた。

スマホを触らなかった分、生まれた時間は驚くほど多かった。いつもならスクリーンタイムが1日平均5時間以上あった私。その時間を読書や散歩、友人とのおしゃべりに使ってみた。特に友人と会った時、テーブルにスマホを置かずに話すだけで、こんなにも会話が弾むのかと驚いた。互いの顔をしっかり見て、言葉のニュアンスや表情を読み取りながら話す時間は、何物にも代えがたいものだった。普段読まなかった自己啓発本を読み進めたり、ずっと挑戦したかった本格的なパスタ作りにじっくりと取り組んだり、やりたかったけれど時間がなくて後回しにしていたことが次々と実現した。そして、夜はスマホの光を浴びないせいか、心も体もリラックスして、すんなりと眠りにつくことができた。

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そして、24時間ぶりにスマホの電源を入れた。画面が明るくなった瞬間、通知の嵐が押し寄せた。LINEの未読メッセージが何十件も、仕事のメール、Instagramの最新投稿...。その通知を一つ一つ見ていくうちに、急に心がざわつき始めた。情報が洪水のように押し寄せてきて、頭が混乱する。たった1日スマホから離れただけで、こんなにも感覚が変わるなんて、自分でも驚きだった。スマホは便利で欠かせないものだけれど、使い方を間違えれば、私たちから大切な時間や心の平穏を奪ってしまうのかもしれないと、改めて強く感じた。

この体験を経て、私はスマホとの付き合い方を見直そうと決めた。スマホを持たない時間を作る、触る時間を決める、本当に必要な時だけ触る。完璧にこなすのは難しいかもしれないけれど、少しずつでも意識を変えていきたい。そして、スマホから離れたからこそ得られた、あの穏やかな時間とたくさんの発見を、これからもずっと大切にしていきたいと思う。これからは、もっと自分の感覚を信じて、デジタルデトックスの時間を定期的に設けていこうと心に誓った。