彼女はわたしの1年後に入社し、わたしの部署に配属された後輩だった。
彼女はわたしと同じ年の生まれで、早生まれの、学年で言えば1つ先輩だった。

第一印象はあまり良くなかったことを覚えている。
人当たりが良く、ノリも良く、屈託なく笑う。
わたしとは違う世界に生きている人なんだと思っていた。

いつから仲良くなっていたのか、今ではもう覚えていない。愛用している香水が一緒だったとか、そんな些細な理由だったような気もする。

自然と仲良くなっていった中で、わたしが彼女に抱いていた印象は徐々に変わっていった。
あの第一印象は務めて彼女が"そうあろう"としていた姿だったこと。
幼少期の境遇が、ちょっとずつ違ってはいても似ていたこと。
だからこそ同じ職業を志して、この業界にいること。
そして、同じ会社にいること。

香水にしても境遇にしても、ちょっとしたことが似ていて、年が近くて、気がついたら意気投合していた。

◎          ◎

それから、仲良くなった要因の1つとして、環境というものが大きかったと思う。
正直、当時の会社は働きやすい環境とは決して言えなかった。

そのことをぐちぐち言い合うことだけが日々の楽しみであり救いだった。

会社のことはもちろん、日常のこと、友人のこと、家族のこと。わたしと彼女の間には、確かに理解し合える瞬間があった。それが心地よかった。

ただ、彼女にとってはそうでなかったのかもしれない。
わたしはもう、彼女と連絡をとっていない。一切。

当時わたしたちは契約社員だった最終決定は会社がするにせよ、契約更新か解除かを希望することはできた。その年、わたしは契約の更新を、彼女は解除を希望していた。

彼女は県をまたぐ転職はしないようだった。
彼女が退職するまで、「同僚じゃなくなっても絶対に会おうね」と何度も言い合った。

◎          ◎

やがて春になり、会社は彼女の門出を祝った。
わたしは個人的に、「ご飯行こう!」とメッセージを送った。
時期的にも、彼女が相当忙しかったことは知っていた。
なかなか既読にもならなかったし、彼女の性格からも既読になりにくいことは理解していた。

わたしは急かさなかった。時折来る、『ごめん忙しくて!』のメッセージにも、プレッシャーにならないように返したつもりだった。それはもちろん、本心だった。

しばらくして、彼女から『送信を取り消しました』という通知を受け取った。
その直前にどんなメッセージを送ってくれたのか、わたしは確認できなかった。

その瞬間、"わたしは彼女にとって重い枷になっていたのかもしれない"と思ってしまった。
彼女の思いを聞くことが億劫になって、今もその真意は彼女にしかわからない。

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それでも彼女は、わたしの戦友だ。
わたしは今もそう思っている。

だからこそ、彼女が戦場を退いてしまった以上、わたしたちが心を交わすことはもう難しいのかもしれない。
わたしが愛用する香水も、変わってしまった。

それでも、わたしはまた彼女に会える日が来ることを願っている。