私は8月に1つ年を重ねた。毎年やって来る誕生日。私はいつも特別なことはしていない。今年のプランはどうしよう。誕生日が近付いてくると母親にもプランを聞かれる。

結局、今年は行き慣れたお気に入りの駅ビルに行くことにした。けれど、駅ビルで何をするかは決めていないまま、とりあえず電車に乗った。せっかくだから、ご飯を食べたい。何を食べよう。その駅ビルにはお気に入りのレストランが3~4か所あって、だいたいいつもそのうちのどこかのお店に入ることが多い。もちろん、それでも良いのだけれど、その時、ふと前日に見た「とんかつ」が頭をよぎった。

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前日の出来事。私はふと、以前好きで行っていた銭湯が少し前にリニューアルオープンしたことを思い出した。けれど、今は外が暑いから銭湯に行く気にはなれない。涼しくなってから行こうと思い、とりあえず、その銭湯のホームページを見た。レストランも新しくなっていて、メニューを見た。すると、一番初めにとんかつがでかでかと載っていた。とんかつがおすすめなのだろうか。その時は何気なく見ていたけれど、頭の片隅に残っていたのか。

誕生日当日。駅ビルに向かう道中、脳内にとんかつが浮上した。とんかつ、好きだけれど、めったに食べないし、まして、外で食べたことないなぁ。誕生日という節目に新しいことに挑戦するのも良い。ということで、人生で初めて外でとんかつを食べることにした。ロース、野菜巻き、えびかつ(もはやとんかつではない)……色々あって、どれにしようか迷ったけれど、初めてなのでそのお店定番のヘレにした。

待ちに待ったとんかつ。一口食べると、衣がサクサクで全く油を感じない程軽い。やはり、家で食べるのとは違うなと感動した。そのお店はサラダ、お味噌汁、ご飯などがビュッフェ形式で自分で好きに取って食べることができる。私がご飯をお茶碗に入れようとした時、サラリーマン風の男性が「ご飯用のお茶碗ってこれで良いんですかね?」とお茶碗を手にしながら、尋ねてきた。お茶碗とお味噌汁のお椀が似ていたので、おそらく不安に思ったのだと思うけれど、お味噌汁のお椀には乾燥わかめとお麩が予め入っていたので、案外区別は簡単だった。私は、「それで合ってると思いますよ」と答えた。内心、「私、ここに来たの今日が初めてなんだけどな」と思いながら。

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食事を終えた後、私はお気に入りの場所へ行った。そこはビルの広場で街中の景色を無料で楽しむことができる。ベンチに腰掛けると、もはや自分だけの世界にいるようだ。その後、これからの季節にピッタリな秋スイーツといつものお気に入りの手土産を買って帰宅した。

次の日。私は前日のプランを振り返り、新しいことといつものお気に入りのこと、その両方を織り交ぜたことが結果的にとても充実していたなと思った。いつもと同じことをするのは簡単。けれど、新しいことに挑戦するのはアイデアと勇気が必要だ。私は前日のとんかつに続き、何か新しいことに挑戦してみたいなと思った。

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ここでふとよぎったのが、かがみよかがみの本募集テーマ「24時間スマホから離れたみた体験記」だった。こちらも頭の片隅にあったのだろう。初めてこのテーマを目にした時は、24時間スマホを使わないのは無理だろうなと思っていた。私のスマホの1日当たりの使用時間は平均2時間なので、ヘビーユーザーではないと思うけれど、全く使わない自分は想像できなかった。

けれど、これを機にやってみるのも良いんじゃない?と思い、誕生日の翌日に決行。朝起きてから一切スマホを触らず過ごす。案外困らなかった。午後、母親とショッピングに行くことになり、途中、別行動もするので、もしもの時に備えて、迷いはありつつも、一応スマホを持参することにした。けれど、結局使わなかった。帰宅し、晩御飯を食べ終えて、テレビを見ている時に突如スマホの通知音が鳴った。私は家にいる時、基本マナーモードにしていない。その日はスマホを使用しないでおこうと心には決めたけれど、あえて、マナーモードにしたり、電源を切るのは何か違うなと思い、通知音はいつも通りにしていた。たぶん、そんな重要なことではないだろうけれど、通知音を聞いてしまうとやはり気になってしまう。

そして、結局、スマホを確認した。電車の遅延を知らせるメッセージだった。それを確認したのをきっかけに他の通知も否応なしに目に入る。けれど、どれも重要なことではなかったので、およそ1分程で画面を閉じた。その直後、一旦スマホを触ったことにより、趣味嗜好でスマホを見たいという強い衝動に駆られた。おそらく、欲求が刺激されたのだろう。けれど、そこは食い止めた。その後、母親が「この漫画面白いで」とスマホを見せてきた。またもやどうしたものか。けれど、そこで、「今日は一切スマホを見ないことにしているから」と返事するのもなんだか違う気がしたので、漫画を見た。4コマ漫画だったから、すぐに読み終えた。そして、その後はスマホを見ることなく、一日が終わった。

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次の日、スマホを開き、真っ先に好きな有名人のインスタグラムを見た。丸一日ぶりだけれど、そこまで久しぶり感はない。丸一日見なくても案外平気だった。だぶん、普段、なんとなくスマホを見ているだけで、そこまで深い意味はないのだと思う。小学6年生で初めて携帯電話を手にし、それ以来、丸一日全く携帯電話やスマホを触らなかった日はなかった気がする。(正確には、ほんの少しだけ触ることになってしまったけれど)今やデジタル社会でスマホが手放せない世の中だから、なかなか難しい面もあるけれど、スマホとはほどほどに付き合うのがベストだと感じた。