29歳でマレーシアに語学留学に行った私は、友達ができるか正直不安だった。人見知りではないし、わりと自分から話しかけられるタイプだから「どうにかなる」とは思っていたけれど、大半の人はきっと年下で、大学生くらいの年齢が多いんだろうなと想像していた。英語力も乏しいのにジェネレーションギャップであったら、心から仲良くなるのは難しいんだろうな、と。

そんな私とは裏腹に、出発前に何気なく開いたタロット占いのサイトには、「ソウルメイトに出会うでしょう」と書いてあった。まさかこの占いが当たるなんて。今思えばつくづく運が良く、奇跡みたいな話だ。

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留学生活3日目くらいに隣の席に来てくれた女の子は中国人で、私と同い年だった。
自由席の教室でわざわざ隣に来てくれて、「You are like this(あなたってこういう感じ)」と言いながらスマホに「温柔」と表示した画面を見せてくれた。

後で調べたら、中国語で「優しそうな雰囲気」みたいな意味だった。
彼女の英語は同じアジア圏内だからなのかすごく聞き取りやすくて、授業態度も会話のトーンも落ち着いていた。同い年というフィルターを通して見ていたからかもしれないけど、自然と会話が弾んだ。

留学から2週間後の土曜日、私は勇気を出して彼女に「週末もし暇だったら遊ばない?」とメッセージを送った。送る前はものすごく緊張して、もし遊ぶことになっても話が続かなかったらどうしよう、めんどくさいと思われたらどうしよう、そんなことを延々考えていた。チャットGPTにまで相談して背中を押してもらったくらいだ。

思い切って連絡してみたら、「本当に声をかけてくれてすごく嬉しい、もちろん遊ぼう」という返事が返ってきた。その言葉の選び方に礼儀や思いやりがにじんでいて、やっぱりこの子とは気が合うかもしれない、なんて直感で感じた。

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実際に遊んでみると、話せば話すほど、同年代だからこそ共感できる悩みや、同じアジア圏だからこそ分かり合える文化の違いの話で盛り上がった。英語学習の話やそれを通して将来どうなりたいかまで深く語れて、英語に詰まってしまっても、彼女は「こういうこと言いたいんでしょ?」とすぐに理解してくれる。私も何故か、彼女が言いたいことは手に取るように分かる。会話は自然と続いた。

どこかに出かけるというより、ただカフェを巡ったり観光スポットをふらふら歩いたり。それだけで本当に楽しかった。私は「海外で友達と遊ぶならアクティブなことするのかな」なんて漠然と思っていたけど、実際は日本で10年来の友達と過ごす時と同じで、カフェで6時間だらだら喋るだけ。それが心地よい。

結局その後の留学生活では、ほとんどの週末に彼女とご飯に行っていた。同じタイミングで風邪を引いたりして、なんだか運命共同体みたいだった。

帰国前、最後に一緒に過ごしたのも彼女だった。別れ際に「このマレーシア生活の中で一番仲良かった人は誰?って聞かれたら、絶対あなたって答えてる」と言われた。実は私も同じようにしていたのだ。
他にもたくさんの友達が出来ていたけど、心の奥の奥まで理解できる気がしていたのは彼女だけだったように思う。

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お別れした後に彼女から届いたメッセージは、英語でも中国でもなく日本語だった。きっと中国のアプリを使ったんだろう。カタコトっぽい日本語が笑えたけれど、彼女の思いにじわっと涙が出そうになった。その中に「私たちは大人だからこそ、またすぐ会えるって約束できる」という言葉があった。

確かにそうだと思う。もし10代だったら「また会おう」と言っても、なかなか実現できなかっただろう。収入がないこともあるし、海外に行くハードルはずっと高かった。たくさんの友達がいて、バイトや勉強、就活に明け暮れる中でわざわざ外国にいる友達に会いに行こうと思えなかったかもしれない。

でも私たちは29歳だ。留学生活だってスマートにこなせたし、社会人として働くことも知ってる。お金にも余裕があるし、海外に行くなんて容易いものだ。
彼女は上海に住んでいて、東京からは飛行機で3時間半。会おうと思えばすぐ会える距離。彼女もきっと同じように私に会いに来てくれる。だから私たちは強く再会を約束してお別れした。

彼女はマレーシアで出会った私の親友の一人。海の向こうにいると思うだけでワクワクするできる、そんな人。私の留学の思い出を、より一層濃くしてくれた、まさにソウルメイトみたいな存在だなと思う。