映画を見に行って気がついたら、推しと友だちの両方を手に入れていた。

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それはとある新作のロボットアニメ映画を見に行った時のこと。全く興味のないシリーズの作品だったのに、予告編に惹かれて足を運んだ。私はスクリーンに描かれる人間模様やそれらを彩る音楽、丁寧な作画に夢中になって魅入ってしまった。

鑑賞を終え帰宅すると、そのシリーズの歴史や派生作品についてもっと知りたいと思い、検索を始めた。しかし、量が多すぎてすぐに手が止まってしまった。初代シリーズの第一話の放送から何十周年も迎えた作品。歴史も派生作品も展開するコンテンツも膨大。大量に表示された検索結果に対し、どこから手をつければいいのか困ってしまった。

そんな中、「シリーズを3分で解説する」趣旨の動画が目に飛び込んできた。キャッチーなタイトルのサムネイルに惹かれて再生してみると、緑髪のイケメンが妙にテンション高く早口で解説を始める。この緑色の彼こそ、素敵な友人たちに出会うきっかけになった、私の推しだ。

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彼は第一印象こそ「おもしろネタキャラ」だった。敵役ぽいのに敵味方関係なくメタ的な鋭いツッコミを炸裂させるその姿は、見てるだけでとても笑えてしまう。

もっと彼のことが知りたいと思ってしまった私は、彼が出演している作品に手を伸ばした。

けれど物語の彼は、第一印象とは雰囲気が違っていた。そこに映っていたのは「おもしろキャラ」ではなく、他の登場人物全員から嫌われていて、過去の経験から道化師を演じているような「かわいそうがすぎる」人物だった。

興奮しすぎて、本当に数日熱を出したくらいの衝撃。何度も作品を見返し、その作品について調べまくる日々がしばらく続いた。

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推しへの気持ちを誰かと分かち合いたくて、SNSでアカウントを作った。同じ熱量で語り合える人がどこかにいるはず、そんな直感でフォローしたり、投稿したり。

界隈で最初に出会った友だちとやりとりした内容、今でも時々見返している。推しのことばかりで頭がいっぱいだったなぁ、と笑ってしまう。けど、気がついたら自然と会話が続いていて、仲良くなっていた。

気づけば推しを通して一緒に笑って、同じネタで盛り上がっていた。

やがて「推し語り」だけでなく、旅行のついでに会おうとか、別の推しイベントで集合しようとか。交流が深まるうちに、「推し」抜きでも会いたい関係になっていた。会えば推しトークで始まり、気づけば恋バナや仕事の愚痴で夜が更ける。

「ねえ、それ分かる!」と笑いながら、共感でお腹がいっぱいになる時間。

あの頃の私はまだ心に深い傷を抱えていたけれど、そんな友人たちと過ごす時間は、その傷を一時的に忘れさせてくれる特効薬みたいだった。

推しから始まった縁が、気づけば“人生の友人たち”へと変わっていったのだ。

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あの推しがいなかったら、きっと出会っていなかった友人たち。偶然見た予告編から、私の人生をここまで変えるなんて誰が想像しただろう。 

推し活はただ楽しいだけじゃなかった。辛い経験で心が重く沈んでいた私にとって、推しと、そして推しを通じて出会った友だちの存在は、救いそのものだった。

「大丈夫だよ」と直接言われなくても、ただ一緒に笑って、推しの話で盛り上がるだけで、世界に色が戻っていった。

推しと、SNSで出会った友だち。二つの偶然が重なって、私は“生きててよかった”と思える時間を手に入れた。

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これから先、推しへの熱量が変わっても、友人との縁を大切にしていきたい。推しの新情報はほぼ出なくても「久しぶりに会おうよ」って声をかけ合える関係でいたい。

学生時代の友だちとは違って、推しという一点から偶然つながった関係。でも、その縁はたぶん、もう推しだけに縛られていない。恋愛の話も、仕事の愚痴も、他の推しの話もできる。そんな“ちょうどいい距離感”が心地いい。

推し活から始まった友情が、人生の長いおまけのように、これからも続いていけばいいなと思う。