2020年、おそらく生まれてからこのかた、一番長い時間を家の中で過ごした1年だった。
そんなステイホーム中に私は日々の何気ない日常を4コマ漫画に描き記すようになっていった。

日常は大小様々な起承転結の連続

はじまりは友人の軽い提案だった。
当時、「100日後に死ぬワニ」がとても人気で、友人が「とりあえず100日4コマ描いてみたら?」と言ったのがきっかけだった。

それから、私は毎日自分の何気ない日常を4コマにするようになった。
内容は全てノンフィクション。
多少の脚色はあっても、基本的にはその日に起こった何気ない出来事を漫画にした。
忙しい日々の中ではすぐに忘れ去られてしまうような1日。
気がついたら1週間、1ヶ月があっという間に経ってしまうような現代社会。
今思えば、
何気ない1日を漫画にすることによって、そんな1日1日を大切にしたいという思いがあったのかもしれない。

いざ描き始めてみると、これまでの日常に対する見方が一気に変わった。
それもほんの一瞬で、世界が全く違うものに思えた。

4コマ漫画を描くときは、できるだけ起承転結を意識して描くようにした。
そのために、日常の中に起承転結を探しながら生活した。
すると見えてくる見えてくる。

わたしは、日常が大小様々な起承転結の連続であることに気づいた。

私の日々は1日たりとも同じ日はないのだ

例えば、
朝起きた。ニキビができていた。念入りに顔を洗った。早くニキビが治るといいな。
わたしの4コマはこんなゆるい内容である。

しかし、この4コマを描くために、自分のその日の一つ一つの行動と、その行動の裏にある自分の気持ちに注目するようになった。
そうすることで、何気ない1日の中に多くのストーリーがあることを知った。

顔を洗うという動作は毎日行う。まぁたまにめんどくさくなって顔を洗わないときもあるかもしれないけれど、基本的には毎日顔を洗う。
そして歯磨きをして着替えて、仕事に行って・・・。
何気ない1日。
何気ない毎日。
特に代わり映えのしない毎日。
だと思っていた。

しかし、日常を4コマにする際、日常の中にある変化に注目する。
単に顔を洗う動作でも、ニキビができている、だとか、今日は昨日より肌の調子が良くて嬉しい、だとかほんとに些細な変化に目を留めてそれを漫画にする。

歯磨きをするとき、今日はなんだかいつもよりすっきりした。

今日は外が寒いから暖かい服を着よう。

仕事中に先輩がお菓子をくれて嬉しかった。

漫画を描き始めてから、私の日々は1日たりとも同じ日はないのだと気づいた。

他の人の心との適度な距離感についても考えるようになった

とても当たり前のことなのだろう。
だけれど、1日24時間をたった4コマにするという作業を通して、1日24時間のうちの数分、いや数秒を漫画にするという作業を通して、日々の些細な変化に気を配るようになった。

そして、一つ一つの何気ない行動や出来事に対して、自分の心は一体どんな反応をしているか、今どんな気持ちなのかを気にするようになった。

さらには、それを漫画にしてアウトプットするために、どのような表現で描けばより読者に伝わりやすいか、考えるようになった。

アウトプットする際は、読者の受け取り方の自由さを奪ってしまわないように、読む人それぞれが、私の1日の出来事を読んで自由な感情を持てるように、考えて書いた。
そうすることで、相手の気持ちを大切にするようになった。
伝えたいけど、伝えすぎてはいけない。
他の人の心との適度な距離感について考えるようになった。

気がつけば紙の上の自分にも優しく接するようになっていた

わたしの4コマ漫画の主人公はわたしである。
わたしの目で見て、わたしが行動したことを描いているから、わたしはわたしが主人公の4コマ漫画しか描けない。

けれど、紙の上の自分は、今実際に体を動かしている自分とはなんだか少し違うような気もする。
紙の上に毎日自分を作り出すことで、そのキャラクターにとても愛着がわいてくる。
いつしかそれが自分であることを忘れてしまうような気もしてくる。
そして、他人に対して優しく接するように、気がつけば紙の上の自分にも優しく接するようになっていた。

この忙しい日常で、いつのまにか自分のことを後回しにしてしまうような日常で、わたしは4コマ漫画を描くことで、日常の中に新しい世界を見つけた。